多度学園は約92億円―残る6校の整備費はいくらになる? | 学校再編の財政編 第1回

多度学園

※本連載の金額は、特記がない限り公表資料をもとにした概算です。将来の契約額や桑名市の公式試算を示すものではありません。

桑名市は、市内の小中学校を将来的に7校の施設一体型小中一貫校・義務教育学校へ再編する計画を進めています。

すでに多度学園が開校し、今後は光風、陽和、正和、陵成、光陵、長島の6校を順次整備する構想です。市の資料では、1校の完成に6~10年、すべての再編が完了するまでに36~60年を想定しています。

これほど長期間に及ぶ大事業でありながら、再編全体にいくら必要なのかは、まだ示されていません。

桑名市は、パブリックコメントへの回答で次のように説明しています。

総事業費については、建設時期、再編の順番によってその規模が大きく変わるため、現段階での試算は行っていません。
再編が進む中でお示しできるものと考えています。

建設時期や順番によって金額が変わるのは事実です。しかし、最終的な契約額を確定できないことと、現時点の条件で概算すら示せないことは同じではありません。

そこで今回は、すでに整備された多度学園の実績を基準に、今後の6校にどの程度の整備費が必要になり得るのかを試算します。

目次

多度学園では、児童生徒1人当たり約1,166万円

多度学園について、公表資料から確認できる主な数値は次のとおりです。

  • 児童生徒数:789人
  • 延床面積:13,396㎡
  • 総事業費:約92億円

この数値を単純に割ると、次のようになります。

  • 児童生徒1人当たりの延床面積:約17.0㎡
  • 延床面積1㎡当たりの事業費:約68.7万円
  • 児童生徒1人当たりの事業費:約1,166万円

ここでいう約68.7万円/㎡は、建物本体だけの工事単価ではありません。設計、設備、外構、造成などを含む可能性がある総事業費を、延床面積で割った「事業費ベースの実質単価」です。

同様に、約1,166万円/人も、学校の建設費が児童生徒数に完全比例することを意味するものではありません。それでも、桑名市が実際に整備した学校の規模と事業費から導いた参考値として、今後の計画規模を考える手がかりになります。

今後6校で、概算約773億~924億円

桑名市の資料に示された再編後の児童生徒数に、多度学園の1人当たり事業費約1,166万円を当てはめると、次の結果になります。R15年度は2033年度、R25年度は2043年度です。

スクロールできます
新設予定校R15年度推計R15年度推計による概算R25年度推計R25年度推計による概算
光風小中一貫校2,234人約260.5億円1,721人約200.7億円
陽和小中一貫校1,151人約134.2億円958人約111.7億円
正和小中一貫校1,462人約170.5億円1,250人約145.8億円
陵成小中一貫校1,562人約182.1億円1,223人約142.6億円
光陵小中一貫校889人約103.7億円831人約96.9億円
長島小中一貫校627人約73.1億円647人約75.4億円
合計7,925人約924.1億円6,630人約773.1億円

すでに整備された多度学園の約92億円を加えると、7校全体では次の規模になります。

  • R15年度の児童生徒数を基準にした場合:約1,016億円
  • R25年度の児童生徒数を基準にした場合:約865億円

つまり、多度学園と同程度の1人当たり面積・整備水準を前提にすると、桑名市の再編全体は、おおむね900億~1,000億円規模になり得るということです。

これは「将来の予算額」ではない

この試算には、いくつかの大きな限界があります。

第一に、6校が同じ年に建設されるわけではありません。全体の完成には36~60年が想定されているため、本来は各校の開校予定年度における児童生徒数で計算する必要があります。

第二に、学校には、児童生徒数にかかわらず必要となる職員室、保健室、特別教室、体育館などがあります。そのため、規模の小さい学校では1人当たり面積が大きくなる可能性があります。一方、大規模校では施設を共用できるため、単純比例より安くなる可能性もあります。

第三に、今後の建設物価は分かりません。多度学園では、インフレを理由に当初契約金額から約12.9億円(増額率16.4%)の増額が発生しました。数十年後の学校ほど、現在の単価から大きく変わる可能性があります。

したがって、約865億~1,016億円は「実際に必ず必要となる金額」ではなく、多度学園の実績を横に展開した場合の参考レンジです。

しかし、計算が粗いから無意味なのではありません。この試算から分かるのは、再編計画が数十億円程度ではなく、1,000億円規模になり得る事業だということです。

また、この金額は建設時にかかる事業費の概算だけであり、実際には新設された学校の維持運営費や学区の広域化に伴うスクールバスなどのランニング費用、そして廃校となった学校施設の解体費など、さまざまな費用が発生します。

「時期で変わる」なら、幅を持たせて示せばよい

他の自治体では、構想段階であっても、現状維持、長寿命化、既存校を使った統合、新設統合など、複数の案を比較しています。

例えば埼玉県入間市は、2つの小学校について、別用地に統合する案、既存校へ統合する案、統合しない案の30年間の整備費を並べています。正確な契約額が決まる前でも、前提条件を示して比較することは可能です。

桑名市でも、少なくとも次の3ケースを示すべきではないでしょうか。

  • 低位ケース:既存校活用を増やし、建設単価の上昇を小さく見込む
  • 標準ケース:多度学園の実績単価を基準にする
  • 高位ケース:物価上昇、造成、解体、道路整備などを大きく見込む

加えて、各校の整備時期、想定規模、建設費、解体費、補助金、市債、年間の返済額を示せば、市民も議会も計画の妥当性を検討できます。

「試算していないのに、安くなる」と言えるのか

桑名市は、総事業費を試算していない一方で、パブリックコメントなどへの回答で次のように説明しています。

修繕費が年々増加する中、再編して新たな学校を建設する方が、長期的には財政負担の軽減につながります。

しかし、本当に安くなるかどうかは、少なくとも次の金額を比較しなければ判断できません。

大規模統廃合・新設案の長期総費用 対 既存校の長寿命化・部分統合案の長期総費用

私たちが問題にしているのは、今回の参考試算が正確に当たるかどうかではありません。

数百億円規模になり得る不可逆的な計画について、市が複数案の概算を示さないまま、「新設する方が財政負担を軽減できる」と結論づけていることです。

建設時期や再編順で金額が変わるからこそ、条件を変えた複数の試算が必要です。

次回は、「国の補助があるから、市の負担は小さい」という説明がどこまで正しいのか、補助金、地方債、地方交付税の仕組みから考えます。

第1回の主な資料

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