小規模校の課題は、統廃合しなければ解決できない?
小規模校には、子ども一人ひとりに目が届きやすい、発表や役割を担う機会が多い、異学年で交流しやすい、地域と連携した学びを行いやすい、といった良さがあります。
一方で、児童数が少ない学校では、次のような課題が生じる可能性もあります。
- 単学級ではクラス替えができず、人間関係が固定されやすい
- 多様な考え方に触れる機会や、団体競技を行う機会が限られる
- 修学旅行や宿泊学習を少人数だけで実施しにくい
- 配置できる教員や専門職の数に制約が生じやすい
こうした課題を「ない」とするのではなく、子どもたちのために具体的な対策を考える必要があります。
しかし、小規模校に課題があることと、学校統廃合が唯一の解決策であることは同じではありません。
まず、桑名市の小規模校を一括りにしないことが重要
同じ「単学級の学校」であっても、児童数、1学年当たりの人数、学校の立地、近隣校までの距離、地域との関係は大きく異なります。
例えば次のような差があります。
| 学校 | 児童数 | 1学年当たりの単純平均 | 考えられる対応の方向 |
|---|---|---|---|
| 城東小 | 43人 | 約7人 | 日常的な学校間交流や集団活動の補完を重点的に検討 |
| 大山田西小 | 74人 | 約12人 | 体育・音楽・行事など、人数が必要な活動を補完 |
| 長島北部小 | 91人 | 約15人 | 近隣校との合同学習やオンライン交流を継続・拡充 |
| 大和小 | 93人 | 約16人 | 必要な教科・行事を選んで学校間連携 |
| 深谷小 | 101人 | 約17人 | 学校の実情を確認し、課題がある分野を個別に補完 |
| 伊曽島小 | 109人 | 約18人 | 同上 |
| 立教小 | 120人 | 約20人 | 一律に「小さすぎる」とせず、実際の教育課題を確認 |
| 精義小 | 151人 | 約25人 | 通常の集団活動が可能な場合も多く、個別診断が必要 |
| 桑部小 | 175人 | 約29人 | 学年人数を踏まえ、本当に不足している機能を確認 |
例えば、1学年平均が約7人の学校と約29人の学校では、同じ単学級でも必要な対策は違います。29人程度いれば通常の団体競技を行える場合も多く、「単学級だから同じ課題がある」とは限りません。
学校規模だけで判断するのではなく、学校ごとに、
- 実際にどのような教育上の課題が起きているのか
- その課題はどの学年・教科・活動で生じているのか
- 何人程度の集団があれば解決できるのか
- 他校との連携で補えるのか
を確認する必要があります。
文部科学省の手引も、標準規模を下回るかどうかだけでなく、学級数、1学級当たりの人数、学校全体の人数、将来推計などを踏まえ、具体的な教育課題を総合的に検討するよう求めています。
解決策の全体像―課題を3つに分けて考える
小規模校の課題を一つにまとめてしまうと、「学校を大きくする」という一つの解決策に結びつきやすくなります。
しかし、課題を分けて考えれば、必要な対策も見えやすくなります。
| 課題 | 必要な解決機能 | 主な対策 |
|---|---|---|
| クラス替えができず、人間関係が固定されやすい | 人間関係と相談先を複数にする | 継続的な合同授業、グループ再編、第三者相談、一時的な学習場所の変更 |
| 多様な価値観や団体競技に触れにくい | 他校・異年齢・地域と継続的に交流する | 対面・遠隔合同授業、合同体育・音楽、異年齢活動、地域人材との授業 |
| 修学旅行・宿泊学習が成立しにくい | 必要な時だけ一定人数を確保する | 連合修学旅行、合同宿泊学習、共同発注、学校混成の班活動 |
重要なのは、学校をなくして全てを一か所に集めるのではなく、必要な機能だけを広域化するという考え方です。
文部科学省も「学校を残す場合の対策」を示している
文部科学省の「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」には、「小規模校を存続させる場合の教育の充実」という章があります。
そこでは、小規模校のメリットを生かし、デメリットを緩和する方法として、次のような取り組みが挙げられています。
- ICTを使った他校との合同授業を、継続的・計画的に行う
- 学校間ネットワークをつくり、定期的に相互訪問して合同授業や合同行事を行う
- 異学年による協働学習や体験学習を年間を通じて実施する
- 地域人材に学校教育へ参加してもらう
- 小規模特認校制度により児童数や多様性を確保する
- 複数校で教員の巡回指導や学校事務の共同実施を行う
- 年間行事や指導計画、教員研修を複数校で共同化する
つまり、国の手引も「統合か現状維持か」という二択ではなく、学校は残しながら、授業・行事・人材などを学校間で共有する方法を示しています。
統廃合以外の12の方法
導入しやすさは、桑名市で試験的に始める場合の「制度変更の少なさ」「初期費用」「関係者調整」「移動負担」をもとにした5段階の目安です。研究上の評価ではありません。
| 方法 | 具体的な内容 | 主に解決する課題 | 実績・位置付け | 導入しやすさ |
|---|---|---|---|---|
| 1. 学校群方式・合同カリキュラム | 近隣の2~4校を固定グループ化し、年間計画、授業、行事、旅行、研修を共同設計する。校舎と学校名は残す | 全般 | 徳島県阿南市や海外に類似実績 | ★★★☆☆ |
| 2. 対面合同授業・共同学習日 | スクールバス等で相互訪問し、体育、音楽、理科、総合学習などを合同実施 | 多様性、団体活動、人間関係 | 国内実績あり。文科省も例示。桑名市内でも類似実績あり。 | ★★★★★ |
| 3. 遠隔合同授業・オンライン交流 | 討論、発表、道徳、外国語、共同制作などを他校と継続実施 | 多様性、固定化した人間関係 | 文科省の実証・国内実績あり。桑名市内でも実績あり。 | ★★★★★ |
| 4. 合同体育・音楽・合同チーム | 人数が必要な単元だけを合同化し、年間を通じて同じチームでも活動する | 団体競技、協働経験 | 国内で広く実施可能 | ★★★★★ |
| 5. 連合修学旅行・合同宿泊学習 | 複数校でバス、宿泊、旅行会社への発注、事前学習、班編成を共同化 | 修学旅行、多様性 | 国内各地で実施される方式。桑名市内でも実績あり。 | ★★★★★ |
| 6. 巡回教員・専門人材の共同配置 | 音楽、体育、外国語、ICT、特別支援、カウンセラー等を複数校で共有 | 教育機会、専門性、相談体制 | 文科省が例示。海外にも実績 | ★★★☆☆ |
| 7. 縦割り活動の本格化 | 1~6年生の固定チームで、探究、行事、地域活動、係活動を年間実施 | 多様性、社会性、役割経験 | 国内の学校でも実践例が多い。桑名市内でも実績あり | ★★★★★ |
| 8. 専門家による修復的対話・SCによるチーム支援 | 教員を一次窓口とし、SCが見立て・助言・面談を担当。学校のいじめ対策組織が支援方針と役割分担を決定する。必要に応じてSFBT等も活用 | いじめ、人間関係、相談先不足 | 文科省SC活用事業に、教員への助言・ケース会議・組織的支援の実例あり。桑名市内でも土台あり | ★★★★☆ |
| 9. 小規模特認校制度 | 校区外からの通学を認め、特色ある教育を希望する児童を受け入れる | 児童数、多様性 | 国内の複数自治体で制度実績 | ★★★☆☆ |
| 10. 地域人材・大学・外国人との協働 | 企業、大学生、外国人住民、スポーツ団体、文化団体等が継続的に授業へ参加 | 多様な価値観、体験機会 | 国内外に実績。桑名市内にも土台あり | ★★★★★ |
| 11. 期間限定の合同学級 | 2~6週間だけ複数校混成クラスを編成し、探究や特定教科を一緒に学ぶ | 人間関係、団体活動、多様性 | 構成要素には実績。制度としては試験的 | ★★★☆☆ |
| 12. トラブル時の一時的な学級・学校移動 | 深刻な関係悪化時に、提携校、別教室、オンライン教室等で一定期間学べるようにする | いじめ、固定化した人間関係 | 制度設計が必要な試験的提案 | ★★☆☆☆ |
導入しやすさを重視する理由
最初から市内全域の制度を変えるのではなく、試験的に取り組み、効果や課題を検証することが重要です。
そのため、まずは大規模な施設整備や法制度の変更を必要としない、次のような方法が適していると考えます。
月1~2回の対面合同授業(体育・音楽など)
週1回の遠隔合同授業(道徳・総合学習・シティズンシップなど)
スクールカウンセラーを中心とした対策チームの仕組み
連合修学旅行・合同宿泊学習
地域人材・大学・スポーツ団体等との協働
これらは単独でも始められますが、同じ学校同士で継続的に組み合わせることで、より大きな効果が期待できます。
課題1 クラス替えができず、人間関係が固定されやすい
単学級では、子ども同士のトラブルが起きたときに、翌年度にクラスを分けることができません。この点は、小規模校の大きな課題の一つです。
ただし、クラス替えさえできれば問題が解決するとは限りません。大規模校でも、いじめや不登校は起こります。大切なのは、子どもが一つの人間関係だけに閉じ込められない仕組みと、困ったときに相談・避難できる仕組みです。
例えば、次のような対策が考えられます。
- 近隣校との継続的な合同授業で、学校外にも友人関係をつくる
- 合同授業のグループを学期ごとに組み替える
- スクールカウンセラーなどの専門職を中心としたいじめ/トラブル対策チームを作る
- 担任だけで抱え込まず、第三者が早期に介入できる体制を整える
- 深刻な関係悪化が起きた場合、提携校や別教室で一時的に学べる制度を検討する
被害を受けた子どもだけに移動を強いる運用は避けなければなりませんが、平時から複数の学びの場と相談先を用意することには意味があります。
スクールカウンセラーを「教員を支える専門家」として活用する
桑名市でもスクールカウンセラー(SC)の定期訪問が行われています。しかし、在校時間が限られているため、子どもが悩みを抱えたタイミングで直接相談できるとは限りません。
そこで、日常的に子どもと接する担任や養護教諭が一次窓口となり、SCが心理面からの見立てや対応方法を助言する仕組みが重要です。必要に応じてSCが本人・保護者と面談し、学校のいじめ対策チームが支援方針と役割分担を決めます。
文部科学省の事例集にも、SCによる教員への助言、ケース会議、校内研修を通じて、学校全体の対応力を高める取り組みが掲載されています。限られた在校時間でも、SCの専門性をチームで活用することは可能です。
たとえば、山口県の令和4年度報告では、SCが関与したいじめ相談830件について、解消と好転を合わせた割合が86.1%と報告されています。(これは山口県独自の集計であり、全国一律の解決率やSCだけの効果を示す数字ではありません。)
課題2 多様な価値観や団体競技に触れにくい
この課題には、オンラインと対面を組み合わせた学校間交流が有効です。
例えば、近隣の2~4校を一つの学校群として、次のような年間計画を組むことができます。
- 毎週:オンラインでの合同授業、討論、道徳、共同制作
- 毎月:対面での合同体育、音楽、理科、総合学習
- 学期ごと:合同スポーツ大会、芸術活動、地域探究、成果発表会
- 放課後や土曜日:学校横断型のスポーツ・文化・科学クラブ
年1回だけの交流では、顔見知りにはなっても、意見を出し合ったり、協力して課題を乗り越えたりする関係までは育ちにくいでしょう。同じ学校同士が、オンラインと対面の両方で年間を通して交流することが重要です。
課題3 少人数では修学旅行や宿泊学習が難しい
この課題は、学校を統合しなくても比較的解決しやすい問題です。
- 複数校で合同修学旅行・合同宿泊学習を行う
- バス、宿泊先、旅行会社への発注を共同化する
- 事前学習をオンラインで一緒に行う
- 班を学校混成にし、中学校進学前の関係づくりにもつなげる
修学旅行だけでなく、遠足、社会見学、自然体験なども同じ学校群で実施すれば、費用や運営面の課題を軽減しながら、子どもの交流機会を増やすことができます。
国内外には、学校を残しながら連携する実例がある
行政に新しい取り組みを提案する際、「前例がない」という理由で検討が進まないことがあります。しかし、学校間連携は全く前例のない考え方ではありません。
1. 徳島県阿南市―分散型小中一貫教育「チェーンスクール」
阿南市では、小規模校を一つの校舎へ集めるのではなく、学校を残したまま人的・物的資源を共有する「チェーンスクール」に取り組んでいます。
椿小学校、椿泊小学校、椿町中学校などが連携し、合同運動会、小中連携授業、人権教育、テレビ会議システムを使った合同学習や教職員の打ち合わせなどを行いました。
文部科学省の事業でも、統合が難しい地域における教育環境充実のモデルとして紹介されています。学校を残しながら、集団活動、多様な学び、人間関係の広がりを確保する国内事例です。
2. 岐阜県白川町・安八町―ICTと学校間交流
文部科学省の「少子化・人口減少社会に対応した活力ある学校教育推進事業」では、岐阜県白川町によるICTを活用した教育の高度化や、安八町による他校・地域との交流活動も紹介されています。
遠隔合同授業は、移動の負担を抑えながら、多様な意見に触れる機会を増やせる方法です。対面交流と組み合わせることで、より継続的な関係づくりにつなげられます。
3. 桑名市内にも、すでに連携の土台があります
桑名市内でも、学校外の人や遠方の人とつながる授業はすでに始まっています。
- 長島北部小では、海外の日本人学校やJICA海外協力隊などとオンラインでつないだ道徳授業や出前授業などが行われているとの情報があります。
- 他の小学校でも、田植えや芋掘り、ヨガスタジオやハンドボールチームなど、地域の人や企業、団体と連携した授業が行われているとの情報があります。
つまり、学校間交流や地域人材との協働は、桑名市に全く存在しないものを新しく作る話ではありません。現在の取り組みを単発で終わらせず、市全体の仕組みとして継続・拡充することが考えられます。
4. スペイン―Grouped Rural Schools
スペインには、離れた場所にある複数の小規模校を一つのグループとして運営する仕組みがあります。各地域の学校を維持しながら、教員の巡回、教材、教育計画、課外活動などを共有します。
OECDも、農村部で教育の質とアクセスを確保する仕組みとして紹介しています。
5. ポルトガル―School Clusters
ポルトガルでは、複数の学校を学校クラスターとして組織し、学校間で運営や教育資源を連携させる仕組みが広く用いられています。
制度や学校規模は日本と同一ではありませんが、「学校を残すか、一つに統合するか」の間に、複数校で人材・計画・機能を共有する選択肢があることを示しています。
桑名市で導入する場合の3段階
第1段階―すぐに試しやすい取り組み
- 週1回の遠隔合同授業
- 月1回の対面合同授業
- 合同体育・音楽・地域探究
- 合同修学旅行・宿泊学習
- 地域人材やスポーツ団体による出前授業
第2段階―効果を確認して仕組み化する取り組み
- 2~4校を固定した学校群とする
- 年間カリキュラムや行事予定を共同で作る
- 専科教員、ICT支援員、カウンセラー等を共同配置する
- 小規模特認校制度を検討する
- 修復的対話や第三者相談の研修を行う
第3段階―制度設計が必要な試験的取り組み
- 2~6週間の期間限定合同学級
- トラブル時に提携校や別教室で一時的に学べる制度
最初から全てを行う必要はありません。導入しやすい方法から始め、子どもや保護者、教員の意見を聞きながら段階的に広げることが現実的です。
まず1~2年間実証し、統廃合案と比べる
学校間連携にも、移動時間、教員の調整、バスの確保などの課題はあります。
だからこそ、最初から全市一律の結論を決めるのではなく、一部地域で1~2年間実証し、次のような項目を検証するべきではないでしょうか。
- 子どもが交流した人数、相談できる友人の数
- 多様な意見に触れられたと感じる子どもの割合
- 団体競技や合同活動の実施回数
- 人間関係のトラブルへの対応と解決までの期間
- 修学旅行や宿泊学習の費用
- 子どもの移動時間と疲労
- 教員の準備時間と負担
- 保護者の送迎負担
- 必要となる運営費
その結果を、大規模校への統廃合に必要な建設費、通学時間、スクールバス費用、子どもの心理的負担、地域や防災への影響と比較する必要があります。
統廃合が唯一の選択肢ではない
小規模校の課題を放置してよいとは考えていません。しかし、学校ごとに規模も立地も課題も異なるのに、「小規模校」という一つの言葉でまとめ、全てを同じ方法で再編することが合理的とは限りません。
学校を残したままでも、合同授業、合同体育、合同修学旅行、オンライン交流、地域人材との協働、専門職の共有などを組み合わせることで、学習集団、人間関係、教育機会を広げることは可能です。
一度学校を廃校にすれば、学校も地域も元に戻すことは困難です。
だからこそ桑名市には、全市一律の学校再編を進める前に、学校ごとの課題を確認し、学校間連携という選択肢を具体的に実証し、その結果を子ども・保護者・地域へ示してほしいと思います。
参考資料
- 文部科学省「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」
- 文部科学省「少子化・人口減少社会に対応した活力ある学校教育推進事業」平成28年度
- 文部科学省「少子化・人口減少社会に対応した活力ある学校教育推進事業」平成29年度取組モデル
- 徳島県「小中一貫教育(徳島モデル)推進事業」
- OECD「Delivering Quality Education in Rural Communities」
- OECD「Reviews of School Resources: Portugal 2018」
- 桑名市立長島北部小学校ホームページ
- 文部科学省「令和4年度 スクールカウンセラー等活用事業 実践活動事例集」
- 子どもと家族に対するSFBTの系統的レビュー
- 学校でのSFBT実践研究
