「学校を減らす」だけが公共施設改革ではない――南学氏の「縮充」から考える、地域拠点として学校を残す選択肢

多度学園

公共施設・学校施設の老朽化、人口減少、自治体財政の厳しさ。
こうした課題が語られるとき、「公共施設や学校を統廃合して、建物の数・面積を減らすしかない」という説明になりがちです。

総務省が「公共施設等総合管理計画」の作成を自治体に指示して以来、特にその傾向が顕著になっています。
しかし、本当に選択肢はそれだけでしょうか。

公共施設マネジメントを研究してきた南学氏は、2017年に広島市で行った講演で、「拡充」から「縮充」への発想転換を提起しました。施設を従来どおり増やし続けるのでも、数だけを機械的に減らすのでもなく、規模を見直しながら、必要な機能とサービスはむしろ充実させるという考え方です。

この発想を学校再編に当てはめると、もう一つの選択肢が見えてきます。

それは、学校を大規模に集約する前に、地域にある学校を生かし、公民館、学童、子育て支援、防災、スポーツなどの機能を学校へ集める方法です。

目次

「縮充」は、単なる施設削減ではない

広島市は2017年当時、市内に3,321の公共建築物、約398万平方メートルの延床面積を保有していました。同じ規模・仕様で更新と大規模改修を続けると、40年間で約1兆9,000億円、年平均約475億円が必要と試算されていました。2012年度の実績約271億円の約1.8倍です。

現状のまま全てを建て替えることが難しいのは明らかです。

ただし、ここから直ちに「学校を減らすべきだ」という結論になるわけではありません。南氏が示した公共施設マネジメントの考え方は、財源確保の方法を次の四つに分けています。

  1. 施設の統廃合による面積の圧縮
  2. 民間活用などによる運営経費の見直し
  3. 受益者負担の適正化
  4. 遊休資産の売却・貸付けなどによる活用

つまり、面積の削減は手段の一つにすぎません。大切なのは、公共施設を建物の名称ごとに考えるのではなく、住民に必要な機能を、どうすれば持続可能な費用で提供できるかを考えることです。

なお、「縮充」という言葉だけを使うと、「小さくすることを正当化する考え」に見えるかもしれません。しかし、南氏の講演での中心的な意味は、施設を小さくしても、機能は充実させ、より便利にすることです。縮小ありきではなく、サービスの再設計が前提です。

学校は、本当に十分に使い切られているか

南氏の講演資料には、学校施設の稼働率を16.8%とする計算が出てきます。

これは実測値ではありません。1年のうち学校を使う月、1週間の登校日、1日の利用時間を単純に掛け合わせた、施設の時間利用に関する試算です。そのため、「学校の84%が無駄」という意味ではありません。準備、放課後活動、教職員の仕事、地域行事などもあり、教育施設を一般の貸室と同じ尺度だけで評価することもできません。

それでも、この試算が投げかける問いは重要です。

授業で使わない時間帯や場所を、教育活動を妨げない範囲で地域のために活用できないか。

学校には、体育館、校庭、図書室、音楽室、家庭科室、多目的室などがあります。放課後、夜間、休日、長期休業中に地域利用できれば、別々の場所に似た部屋や設備を持つ必要を減らせる可能性があります。

学校に集められる機能

桑名市で検討するなら、例えば次のような組み合わせが考えられます。

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機能学校での活用例期待できる効果
学童・児童館空き教室や専用区画に放課後の居場所を設置子どもの移動を減らし、放課後の安全を確保しやすい
幼稚園・保育所校地内または隣接地に就学前施設を配置幼児期から小学校への接続を支えやすい
公民館・地域交流多目的室、会議室、和室等を地域利用単独の集会施設の更新を抑えられる可能性
図書・学習支援学校図書室と地域の図書サービスを連携蔵書や人材を共有し、子どもの学習環境も充実
スポーツ・文化体育館、校庭、音楽室、家庭科室を時間外に開放既存設備の利用時間を広げられる
行政・福祉相談定期的な出張相談窓口を設置身近な場所で相談できる
防災備蓄倉庫、避難所機能、非常用電源等を整備日常の地域拠点を災害時にも活用できる

これは「学校に何でも押し込む」という話ではありません。地域ごとの人口、施設配置、交通、建物の状態を見ながら、相性のよい機能だけを選ぶ必要があります。

また、他施設の機能を学校へ移すなら、そこで不要になる建物の更新費・維持管理費だけを見るのではなく、その部局が持っていた整備費や運営費も学校側へ振り替えるべきです。学校だけに負担を背負わせるのではなく、子育て、福祉、市民活動、防災などの予算を横断的に組み合わせ、空調、トイレ、バリアフリー、図書、調理設備、地域用出入口などの充実に使う。その仕組みまで設計して初めて「複合化」といえます。

学校プールも「各校に一つ」の前提を見直せる

南氏は、屋外の学校プールが実際に使われる期間は年3週間程度だとして、複数校で使う屋内プールや、既存の公営・民間プールの活用を例に挙げています。

この方法なら、学校ごとに老朽化したプールを更新する代わりに、水泳授業を一定期間にまとめ、バスで移動し、専門指導員に委託することも考えられます。使わない時間は市民利用ができ、跡地は学童、防災備蓄、運動スペースなどに転用できる可能性があります。

一方で、移動時間、バス代、授業日程、障害のある子どもへの対応、災害時の水源機能なども比較しなければなりません。プールをなくせば自動的に安くなるわけではなく、更新費、維持費、移動費、委託費、教育上の効果を合計して比較することが必要です。

建物を減らす前に、管理の仕方でも費用は変えられる

統廃合以外にも、公共施設費を見直す方法があります。その一つが、点検、清掃、小規模修繕などを施設ごと・部局ごとに発注するのではなく、複数施設を一括して管理する「包括管理」です。

兵庫県明石市は、2018年度に学校、幼稚園、保育所、コミュニティセンターなど132施設で包括管理を開始し、2024年度には170施設へ拡大しました。市の行政改革資料では、第1期7年間の効果額を3億5,000万円、年平均5,000万円としています。

もちろん、この金額をそのまま桑名市に当てはめることはできません。施設数、契約範囲、従来の職員配置、委託単価が違うからです。また、予防保全を強化すれば、短期的には支出が増える場合もあります。

それでも明石市の例は、学校を閉じなくても、発注と管理の仕組みを変えることで財政効果を生み出せることを示しています。点検情報を一元化すれば、不具合が大きくなる前に修繕し、建物を長く安全に使うことにもつながります。

学校の地域拠点化には、明確な条件がある

学校の複合化や地域開放にはメリットだけでなく、無視できない課題があります。

子どもの安全

地域利用者と児童生徒の出入口・動線を分け、利用区域を扉や間仕切りで区切る必要があります。受付、電子錠、防犯カメラ、時間帯別の施錠なども必要です。文部科学省も、学校と複合施設の領域を明確にし、教育活動に支障が出ない計画を求めています。

教職員の負担

鍵の受け渡し、予約、清掃、利用者対応、安全管理を教員に担わせてはいけません。地域開放部分は、市の担当部署、指定管理者、地域運営組織などが管理し、学校とは責任分担を明文化する必要があります。

改修費と運営費

複合化には、専用出入口、空調、トイレ、エレベーター、防音、消防設備などの整備費がかかります。統合校の新設費と比較するときは、既存校の改修費だけでなく、将来の修繕、光熱水費、管理人件費も含むライフサイクルコストで比べる必要があります。

地域間の公平性

全ての学校に同じ機能を置けるとは限りません。徒歩圏、公共交通、人口構成、既存施設との距離を地図で示し、「どの地域に、何の機能を残すのか」を住民と決める必要があります。

桑名市が比較すべきなのは、二択ではない

桑名市の学校再編を考える際、比較対象が「現在の学校を何も変えずに維持する案」と「7校の小中一貫校へ集約する案」だけなら、議論は統廃合に有利になりやすくなります。

少なくとも、次の三つは同じ条件で比較すべきです。

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案内容比較すべき主な費用・影響
A案 現状維持・長寿命化現在の学校配置を基本に改修改修・維持費、教育環境、地域拠点、防災
B案 大規模統合小中一貫校へ集約し新設建設・金利・解体・通学・運営費、児童数、地域への影響
C案 地域拠点型の再編学校をできるだけ残し、他の公共機能を複合化改修・管理費、廃止できる他施設の費用、教育・福祉・防災効果

C案は「全校を今のまま残す案」ではありません。建物の状態によっては、長寿命化、減築、棟の集約、建て替えが必要です。反対に、地域に必要な機能を学校へ集めることで、公民館や児童館など別の建物を更新しなくて済む可能性があります。

したがって比較は、学校施設だけの面積や予算で行うべきではありません。市が持つ公共施設全体の30年、40年の費用と、住民が受けられるサービスを合わせて比較する必要があります。

必要なのは「廃校ありき」ではなく、選択肢の公開

南氏の「縮充」が教えてくれるのは、公共施設改革には複数の手段があるということです。

学校を統廃合する。既存校を長寿命化する。他の公共施設を学校へ複合化する。プールなど特定設備だけを共同利用する。包括管理で維持費を見直す。遊休部分を貸し付ける。これらは組み合わせることができます。

どの方法が桑名市に適しているかは、詳細な調査なしには決められません。

だからこそ市には、結論を先に示すのではなく、建物ごとの劣化状況、利用状況、維持管理費、改修費、通学への影響、廃止予定施設、複合化できる機能を公開し、複数案の財政シミュレーションを市民へ示す責任があります。

問われるべきなのは、「学校を何校減らすか」だけではありません。

子どもの学び、地域のつながり、防災、子育て支援を守りながら、公共施設全体をどう使いこなすか。

学校を地域の共有資産として残し、その中身を充実させる道も、正式な選択肢として検討されるべきです。


注記

  • 南学氏の講演は2017年3月時点のものです。広島市の施設数や将来費用推計は、現在の桑名市の状況を示す数字ではなく、考え方を説明するための参考値です。
  • 「学校施設の稼働率16.8%」は、月・週・日の利用時間を掛け合わせた講演資料上の試算であり、実測調査の結果ではありません。
  • 明石市の効果額は同市の取組実績です。桑名市で同額の削減が可能だと示すものではありません。
  • 本稿の「地域拠点型の再編」は、南氏の講演内容をもとに桑名市への応用として筆者が整理した提案であり、南氏が桑名市について直接提言したものではありません。

主な参考資料

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