少子化だから縮小するしかない? 明石市の子育て政策から桑名市が学べること

「子どもの数が減るから、学校や公共サービスを縮小する」。
人口減少の時代には、そうした議論が当然のように語られます。
しかし、本当に選択肢は縮小だけなのでしょうか。

泉房穂さんとひろゆきさんの対談本『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』では、兵庫県明石市の取り組みを中心に、子どもへの投資が人口、地域経済、税収、そして高齢者を含む市民全体の暮らしにどうつながるのかが語られています。

明石市と桑名市では、人口規模も立地も財政状況も異なります。
ですが、同じ大都市近くの「ベッドタウン」という特徴・地の利があり、明石モデルは桑名にとってとても参考になる先行事例だと考えています。

今回は、その著書の中から内容の一部をご紹介します。

目次

少子化の現状と背景(先進国と日本)

先進国で少子化が進む2つの理由

  1. 娯楽の多様化・増加:子作りや子どもを育てる時間を奪っている。
  2. 女性の社会進出率の向上:晩婚化や高齢出産が増加する要因になっている。

海外における少子化へのアプローチ(2つの選択肢)

  • 子ども政策(子育て支援)の強化:スウェーデン、フランスなど。
  • 移民の受け入れで補う:ドイツ、イタリア、カナダなど。(アメリカやイギリスも移民が多く、独自の少子化対策を強力に行わなくても人口が維持できている)

日本の少子化の現状と要因

  • 最大の要因:内閣府のデータによると、「育児や教育にかかる経済的不安」が子どもを作らない理由の第1位で半数以上。
  • 公的予算の少なさ:子育て・教育への公的予算の割合は、日本は先進国の中で最低レベル。ヨーロッパ主要国は日本の約2倍の予算を投じている。(一方、日本の軍事費は世界で10位前後の規模)
  • 所得制限の弊害:国の支援策には所得制限が設けられており、「働いて稼ぐほど手当てが減り損をする」構造になっている。
  • 経済の停滞:日本は過去30年間経済が停滞。2021年時点でOECD 38カ国中、平均賃金は24位。1997年〜2020年の給料上昇率はわずか0.3%。(一方、国会議員の給与は、世界トップクラス・・・)
  • 未婚率の上昇(生涯未婚率):2020年の総務省データで男性25.7%、女性16.4%(1970年時点は男性1.7%、女性3.3%)。
    • 結婚しない理由:第1位「適当な相手と巡り合わないから(特に地方在住者)」、第2位「結婚後の生活資金が足りないから」。
    • 「結婚したいけれどできない」「子どもを産みたいけれど産めない」のが実態。

なぜ少子化が進むとまずいのか?

  • 生産力と消費の低下:子どもの数が減ると将来の生産力が激減する。また消費者が減るためモノが売れなくなる。
  • 企業の衰退と悪循環:売上が落ちた企業は雇用を減らすか給料を下げる。結果として国民も国も貧乏になり、治安が悪化する。
  • 自治体・インフラの崩壊:税収減により、税金で賄われる住民サービスの維持が難しくなり、経済全体が衰退する悪循環に陥る。
  • 超高齢化社会の重圧:2060年にはほぼ1対1(マンツーマン)で高齢者を現役世代が支える構造になる。
  • 高齢者優遇政治(シルバー民主主義):高齢者の方が人口が多く投票率も高いため、高齢者寄りの政策を掲げる政治家が当選しやすく、子ども・若者向け政策が後回しにされやすい。

ひろゆき氏が考える少子化対策案

  • 生涯賃金と納税額の試算:
    • 大卒1人の生涯賃金は約2.7億円。
    • 生涯で納める税金は約4,000万円が相場。
  • 提案:子どもが1人生まれたら1,000万円を支給(給付)する。
  • コストパフォーマンス(投資対効果):
    • 2021年の年間出生数は約81万人。1人1,000万円配っても年間約8.1兆円の投資で済む。
    • 将来返ってくる税金(4,000万円/人)を考慮すると、4倍以上の投資対効果が見込める非常に合理的・効率的な政策である。

明石市の子育て政策と成果(泉房穂 元市長の取り組み)

「東の流山市、西の明石」と称される明石市の子育て支援策と成功のメカニズム。

「5つの無料化」政策

  1. 18歳までの医療費無料
  2. 第2子以降の保育料無料(中間層世帯で子ども1人につき、月5万〜6万円かかっていた負担を解消)
  3. 0歳児へのおむつ定期便無料
  4. 中学校の給食費無料
  5. 公共施設(プールや博物館等)のこども利用料無料

財源と予算運用の実情

  • 予算割合:「5つの無料化」にかかった費用は年間約34億円。これは明石市の年間予算(約2,000億円/人口30万人規模)のわずか1.7%に過ぎない。
  • 「お金がないから少子化対策ができない」は嘘:全体の1.7%の予算を組み替えるだけで実現可能。
  • 真の難しさ:既存の予算は公共事業(無駄の多いハコモノ整備など)や利権業者に「張り付いている」。これらを削って子育て分野へシフトさせるための政治決断が難しい。
  • 家庭への還元効果:年間予算に対する1.7%〜2%のインパクトは、年収600万円の世帯で換算すると年間約12万円(月1万円程度)。子どもの習い事1つ分の月謝レベルの予算を組み替えるだけで、子ども支援は劇的に改善する。

だからこそ、「明石でできることは、他の自治体でもできる」「国でもできる」「トップが本気になってやるかどうかの問題」と、泉さんは再三訴えています。

なぜ所得制限を設けないのか?(中間層ターゲット戦略)

  • 所得制限をかけると、「子育てのために働いているのに手当が打ち切られて損をする」不満が生まれる。
  • 所得制限を外すことで、しっかり働いて納税できる中間層〜共働き世帯(ダブルインカム)が他地域から移住してくる。
  • 移住してきた世帯が地元でお金を使い、固定資産税や住民税を納めるため、結果として自治体の税収が増加する。

明石市が収めた具体的な成果

  • 人口増加:10年連続で人口増加を達成。
  • 経済・不動産の活性化:
    • 2021年には明石駅前の商店街が過去最高益を記録。
    • 建設ラッシュが起き、全国の中古マンション値上がり率ランキングで第3位(25%アップ)を記録。ベスト10の中で首都圏以外からランクインしたのは明石市のみ。
    • 近隣の西宮市(人気エリア)でマンションを買うと最低5,000万円以上かかるが、明石市なら以前は2,000万円台、値上がりした現在でも3,000万円台で購入可能で割安感が高い。
    • 大阪まで電車で40分弱という通勤の利便性もあり、子育て世代の需要が集中して不動産価値が高まった。

反対派(高齢者・商売人)へのフォローと根回し

  • 高齢者へのアプローチ:「高齢者予算は減らしません。先に子育て世代に投資させてください。街が活性化して税収が増えれば、その財源で高齢者福祉も手厚くできますから、少し待ってください」と説得。
  • 商売人へのアプローチ:「子育て世帯が増えれば商店街でお金を使ってくれて儲かりますから、少し待ってください」と説明。
  • 実際の還元:税収が増えたことで、後に「コミュニティバスの無料化」や「認知症検診の受診無料化」など高齢者向け施策の充実に還元できた。

「おむつ定期便」の本当の狙い

  • 単におむつやミルクを無料で届けるだけでなく、最大の目的は「見守りと孤立防止」。
  • 子育て経験のある先輩ママ(女性スタッフ)が毎月「玄関先まで手渡し」で配達するルールにする。
  • 初めての子育てで孤立しがちな母親の話を聞き、アドバイスをする機会を作る。
  • 0〜1歳児の突然死や家庭内での虐待・トラブルを早期に発見・防止するためのセーフティネットとして機能させている。

その他の明石市の独自施策

  • 子ども食堂やフリースクールへの補助金投入。
  • 日本で初となる「養育費の立て替え制度」の導入(フランスなど海外では一般的な制度)。
  • コロナ禍における「大学生の学費立て替え支援」。

行政と市長(首長)の権限・予算運用のリアル

首長(市長)が持つ絶大な権限

  • 「人事権」と「予算編成権」:改革に必要な「人」と「金」の両方の権限を持つため、首長は現場の実行力において国会議員以上の力を持つ。
  • 予算の組み替え手法:
    • 通常の役所の予算作成は「下からの積み上げ方式」だが、それでは遅い。
    • 市長自ら「3年後にこの政策をやるから10億円確保しておけ」と財務担当に指示を出し、役所にトップダウンで調整させる。
  • 予算の削減(切り捨て):
    • 市長が「この予算は切る」と独断すれば、その瞬間に予算が浮く(一度切った予算は市長以外復活させられないため)。
    • 泉市長は就任直後、無駄な公共事業や市営住宅の新設事業を即座に停止。空き家の民家を壊して建て直す支援へシフトさせるなど、効率的な事業へと予算を回した。

学校給食と利権・構造問題

  • 給食の質が極端に悪い地域があるが、これは予算の不足と「中抜き団体・利権業者」が介入していることが原因。
  • 中抜き構造を排除し、適切な予算を割けば給食の質は大幅に改善できる。
  • 生活困窮世帯の子どもにとって、学校給食は1日の中で最も貴重な栄養源。子育てや教育は親だけの責任にせず、社会全体で取り組むべきテーマである。

日本全体の課題とまとめ

  • 持続可能な政策設計の重要性:
    • 明石市でも「小学校の給食費無料化(年間約8億円必要)」や「第1子からの保育料完全無料化(待機児童が急増するリスク)」は、持続可能性や受け皿の問題を考慮して段階的に判断・後回しにした。
    • 子育て支援は「継続してこそ意味がある」ため、無理のない予算設計が不可欠。
    • 生活保護世帯や低所得者は、元々医療費や保育料が無料・安価であるため、わざわざ明石に移住するインセンティブにはならない。
    • 現金ばらまきではなく「サービス無料化」に絞っているため、納税意欲の高い中間層以上が集まり、財源が破綻しない持続可能な構造が作れた。
  • 日本国の構造的な問題:
    • 豊かな国ほど「子どもと教育」に優先して予算を割り振っている。
    • 経済の回し方には「企業を支援する(法人税減税やインフラ整備)」か「消費者を支援する」の2通りがあるが、日本は長年「企業支援」ばかりを行ってきた。
    • 消費者(特に子育て世代)の負担を減らし、彼らが地域でお金を使える環境を作る方が経済循環として圧倒的に効率が良い。
    • 消費税や社会保険料で国民に重い負担を強いているにもかかわらず、その還元が不十分。マスコミや官僚の「少子高齢化でお金がない」というアナウンスに惑わされず、税金の使い道・優先順位を根本から見直す必要がある。

少子化対策を起点に経済を活性化させる明石モデル

STEP
トップが少子化対策に本気で取り組む

市長は、人事権と予算編成権を持っているので、それをしっかり行使すればできる。
明石の場合、全体の予算の1.7%で「5つの無料化」を実施。
財源は、公共事業・ハコモノ作りなどの予算をシフトさせて捻出。

STEP
共働きの子育て世帯が集まる

「子育てするなら明石に住んだ方が得」と考え、子育て世帯が集まってくる
中所得者以上の世帯の人口が増える、子供が増える
「5つの無料化」で浮いたお金で、子育て世帯が地域のお店で買い物や飲食などをする

STEP
税収の増加、公共サービスの充実、経済の活性化

住民税や固定資産税などを通じて税収が増える
増えた財源をもとに、公共サービスを充実させる(高齢者や障がい者などへの福祉も)
商店街が活性化し、不動産や建築業界も活性化する

スクロールできます
子どもへの施策直接的な効果期待される地域への波及検証すべき点
医療費・給食費等の負担軽減家計負担を軽くする地域内消費、定住意向財源、利用実績、継続性
保育料の軽減就労と子育ての両立共働き世帯の定住保育士・定員の確保
おむつ定期便育児負担の軽減孤立防止、早期相談訪問体制、支援への接続
子どもの施設利用無料化体験機会の確保施設利用、家族の外出混雑、運営費、利用格差
学校・教育環境への投資学びと生活の安心地域の魅力、移住・定住教育効果、地域差、長期費用

桑名市の学校再編を考えるときにも必要な視点

桑名市では、児童生徒数の減少を背景に、学校の再編や統廃合が議論されています。学校規模や校舎の維持費を検討することは必要です。しかし、「今後、子どもが減る」という推計だけを出発点にすると、縮小する選択肢ばかりが中心になりかねません。

学校は教育施設であると同時に、子育て世帯が住む場所を選ぶ際の重要な条件です。学校までの距離、通学の安全、地域とのつながり、放課後の居場所、少人数だからこそ得られる安心感も、地域の魅力を形づくります。

学校をなくすことで地域の子育て環境が弱くなり、子育て世帯が住みにくくなれば、「子どもが減るから統廃合する」ことが、さらに子どもの減少を招く可能性もあります。この循環を避けるためには、統廃合による短期的な削減額だけでなく、通学支援費、地域への影響、転入・定住への影響なども含めて比較する必要があります。

桑名市で検討したいのは、例えば次のような問いです。

  • 学校再編で見込む削減額と、必要になる通学・安全対策費を合わせて示しているか
  • 学校を地域の子育て・交流拠点として活用する案を検討したか
  • 医療、給食、保育、相談、放課後支援を一体で見直せないか
  • 子育て世帯の転出理由と、転入先を選ぶ理由を把握しているか
  • 子ども、保護者、地域住民の声を政策決定に反映しているか

明石市の事例を「成功物語」で終わらせない

明石市の政策から学ぶべきなのは、個々の無料化だけではありません。

第一に、予算は固定されたものではなく、優先順位を示すものだということ。第二に、子どもへの施策を福祉部門だけに閉じず、人口、住宅、商業、教育、まちづくりと結びつけて考えること。第三に、施策を継続するため、財源と受け皿を同時に設計することです。

必要なのは、他市の事例を参考にしながら、桑名市のデータで仮説を立て、小さく試し、効果を公開し、改善していくことです。

まとめ――「減ることへの対応」と「選ばれるための政策」を両輪に

人口減少に備えることは必要です。しかし、減ることを前提に公共サービスを縮め続けるだけでは、街の魅力まで失うおそれがあります。

子どもへの投資は、子育て家庭だけを優遇する政策ではありません。地域で働く人、商売をする人、将来福祉を必要とする人を含め、街全体の持続可能性に関わる政策です。

学校再編についても、「何校に減らすか」から始めるのではなく、「桑名市を、子どもが安心して育ち、子育て世帯から選ばれる街にするには何が必要か」から考えることが大切です。

記事末尾の注記・参考資料案

  • 泉房穂・ひろゆき『少子化対策したら人も街も幸せになったって本当ですか?』(KADOKAWA、2023年)
  • 明石市公式ウェブサイト(子育て施策、人口統計、予算・決算資料)
  • 桑名市公式ウェブサイト(人口ビジョン、総合計画、教育環境適正化・学校再編関連資料)

※制度内容や対象者は改定されることがあります。公開時点の公式情報をご確認ください。

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