桑名市は、市内の小中学校を将来的に7校の施設一体型の小中一貫校・義務教育学校へ再編する計画を進めています。
学校施設の老朽化や少子化への対応が必要であることは、多くの市民が理解していると思います。一方、市から示される情報が「現在の学校をそのまま維持するか、7校の新しい学校へ再編するか」という構図に偏れば、市民はほかに現実的な方法があることを知ることができません。
しかし、全国の自治体を調べると、実際の選択肢は二つではありません。
- 校舎を分けたまま小中一貫教育を行う
- 複式学級など、課題のある小学校だけを対象に統合する
- 低学年は地域の分校、高学年は本校へ通う
- 既存校を長寿命化しながら、必要な地域だけ段階的に再編する
- プールなど費用のかかる設備だけを共用する
- 統合する場合も、学校規模や統合形態を地域ごとに変える
本記事では、全国で実際に行われている学校再編・施設整備の事例を、教育、財政、子ども・教員への負担、地域への影響という四つの視点から紹介します。
※各自治体では、人口規模、地理、施設の劣化状況、財政条件が異なります。先行事例をそのまま桑名市へ導入できるという意味ではなく、「検討可能な選択肢」を知るための比較です。
「義務教育学校」以外の「6つの選択肢」
| 選択肢 | 自治体事例 | 主な長所 | 主な課題 |
|---|---|---|---|
| 1.施設分離型の小中一貫教育 | 東京都三鷹市 | 校舎を集約せず9年間の教育連携ができる | 教員の移動、時間割調整、連携時間の確保が必要 |
| 2.課題のある小学校を中心に部分統合 | 京都府福知山市 | 統合対象と目的を限定できる | 対象地域では通学距離や地域拠点への影響が生じる |
| 3.低学年分校を残す | 熊本県八代市 | 低学年の長距離通学を避け、地域との関係を残せる | 小規模な教職員体制、本校との交流・移動が必要 |
| 4.長寿命化と選択的統合を組み合わせる | 名古屋市、柏市 | 建替え時期と財政負担を分散できる | すべてを長寿命化するだけでは財源不足になる場合がある |
| 5.学校を残し、設備だけを共用する | 神奈川県箱根町 | プールなど高コスト設備を減らせる | 移動時間、授業日程、共用先の確保が必要 |
| 6.地域ごとに施設形態を変える | 福知山市、箕面市 | 一体型・分離型を地域条件に応じて選べる | 市内で教育条件に差が出ない仕組みが必要 |
選択肢1 校舎を統合せず、小中一貫教育を行う――三鷹市
小中一貫教育と、施設一体型の義務教育学校は同じものではありません。
東京都三鷹市は、中学校区ごとに小学校と中学校を「学園」としてまとめ、7学園すべてで小中一貫教育を行っています。例えば、1中学校と2~3小学校で一つの学園を構成しますが、児童生徒はそれぞれ従来の校舎に通います。
各学園では、9年間を見通したカリキュラム、小中教員の相互乗り入れ授業、合同研修、児童生徒の交流、学校運営協議会などを実施しています。
メリット
- 小学校と中学校の校舎を新たに一体化しなくても、教育課程を連携できる
- 低学年児童の通学距離や通学時間を大きく変えずに済む
- 各小学校と地域との関係、避難所などの機能を維持しやすい
- 中学校教員の専門性を小学校の授業へ生かせる
デメリット・条件
- 教員が学校間を移動する時間が必要
- 小中学校で異なる時間割や行事日程を調整しなければならない
- 連携を一部の熱心な教員だけに任せると継続しにくい
- コーディネーターや合同研修時間、移動手段などへの予算措置が必要
三鷹市の事例が示すのは、「小中一貫教育を行うなら、校舎も一つにしなければならない」という関係ではないことです。
桑名市でも、中学校区を単位として学校群をつくり、施設分離型のままカリキュラム、合同授業、教員研修、子どもの情報共有を進める方法は検討できます。
選択肢2 複式学級など、課題のある小学校を中心に再編する――福知山市
京都府福知山市は、すべての小中学校を一律に同じ形へ変えたわけではありません。
同市の学校再編では、小学校について「複式学級の解消」「各学年で単学級を確保する」「1学級20人程度の規模を確保する」といった対象条件を示し、小規模・過小規模校を中心に再編しました。
一方、小中一貫教育の形は地域によって異なり、施設一体型、1小1中の分離型、複数小学校と1中学校による分離型を使い分けています。統合前には、対象校同士の合同授業や行事、校舎見学、保護者・地域を含む準備委員会も行われました。
メリット
- 「複式学級の解消」など、解決する課題と統合対象を明確にできる
- 児童数が比較的多い学校まで一律に廃止する必要がない
- 統合前の合同授業により、子どもの不安や人間関係の変化を緩和できる
- 地域の条件に応じて一体型と分離型を選べる
デメリット・条件
- 統合対象地域では通学距離が延びる
- 小学校を失う地域では、地域活動や防災拠点への影響が生じる
- 合同授業や統合準備は、教員と保護者の追加負担になる
- 「20人程度」がすべての地域に適切かは、地理や教育条件を含めて判断する必要がある
桑名市で複式学級が課題なら、まず対象となる小学校と将来推計を明示し、小学校同士の部分統合、合同授業、学校群方式を比較することができます。複式学級対策と、市内すべての中学校を含めた施設一体型義務教育学校化は、別の政策として検討できるからです。
選択肢3 低学年は地域の分校、高学年は本校へ――八代市
熊本県八代市の金剛小学校弥次分校は、1~3年生が分校へ通い、4~6年生は本校へ通う仕組みです。
分校と本校は別々の学校ではなく、校長は本校と分校を兼任し、教職員間の情報共有や合同行事を行っています。富山市教育委員会の事例調査によると、この形は100年以上続いています。
メリット
- 体力や安全面への配慮が特に必要な低学年を、地域に近い学校へ通わせられる
- 高学年では本校の規模を生かした集団学習や学校行事を経験できる
- 地域の学校機能を完全に失わずに済む
- 段階的に環境が変わるため、一斉統合とは異なる移行ができる
デメリット・条件
- 分校にも一定の教職員配置と施設管理費が必要
- 本校との交流行事や教員連携の時間を確保する必要がある
- 4年生から通学方法が変わる
- 児童数がさらに減少すれば、分校存続の再検討が必要になる
桑名市にそのまま当てはめるのではなく、「低学年と高学年で通学条件を分ける」という考え方が参考になります。長距離通学やスクールバスが必要な地域では、低学年校舎、分校、サテライト教室なども比較対象になり得ます。
選択肢4 既存校を長く使い、必要な学校だけ再編する――名古屋市
名古屋市の学校施設リフレッシュプランは、従来の「壊れてから直す」事後保全から、計画的な改修を行う予防保全へ転換し、校舎を従来の約40年ではなく、80年程度使用する長寿命化を基本としています。
同市の試算では、従来方式の一般財源が年平均約84億円であるのに対し、すべての学校を長寿命化した場合は約56億円となります。ただし、近年の整備費約41億円は上回るため、長寿命化だけで解決できるとはしていません。
そこで、将来の児童生徒数を踏まえた選択的な統合や保有面積の適正化を組み合わせ、一般財源を年平均約35~40億円の範囲へ収める複数案を検証しています。
メリット
- 使用可能な校舎を直ちに建て替えず、投資時期を分散できる
- 地域や建物ごとに、改修、建替え、統合を選べる
- 改修時期を計画化し、年度ごとの財政負担を平準化できる
- 「全校維持」と「一斉統合」の中間案を数字で検討できる
デメリット・条件
- 長寿命化できるか、構造・劣化状況の調査が必要
- 工事中の仮設校舎や、居ながら改修への対応が必要
- すべての建物を長寿命化すれば、目標予算を超える可能性がある
- 改修を先送りしすぎると、安全性や教育環境が悪化する
重要なのは、名古屋市が「古い校舎はすべて残す」とも「すべて新設統合する」ともしていないことです。建物の状態と将来人口を基に、長寿命化と再編を組み合わせています。
柏市でも、年間40億円という財政目標ラインを設定して施設整備を進めてきました。しかし、2026年の計画見直しでは、物価上昇や必要な整備水準の変化を反映すると、従来の計画を踏襲した30年間の費用が年平均約93.4億円に達するとの再試算を示しました。その上で、改修範囲を厳選し、より多くの学校へ早期に対策する方針へ転換しています。
この事例は、計画を一度決めて終わりにせず、建設費の変化に合わせて費用を再計算し、整備方法を見直す必要性を示しています。
選択肢5 学校を廃止せず、プールなど設備単位で見直す――箱根町
学校施設の費用を減らす方法は、学校そのものを廃止することだけではありません。
神奈川県箱根町では、2015年度から小学校の水泳授業を総合保健福祉センターの温水プールで行い、各小学校のプールは長寿命化工事などに合わせて解体する方針を示しています。一方、3小学校については長寿命化改修を重点事業として位置づけています。
メリット
- 学校ごとのプール改修、ろ過設備更新、清掃、水質管理などを減らせる
- 温水施設なら天候や水温の影響を受けにくい
- 学校を地域に残しながら、費用の大きな設備だけを合理化できる
- プール跡地を運動、学童、防災など別用途へ活用できる可能性がある
デメリット・条件
- 共用施設までの移動時間と交通手段が必要
- 複数校の授業日程を調整しなければならない
- 共用先の容量が不足すれば、授業回数や時間が制約される
- 移動費、利用料、引率体制まで含めて比較する必要がある
同じ考え方は、給食施設、図書室、体育館、特別教室、学童、公民館などにも応用できます。ただし、共用化によって教育活動が制限されないか、子どもと教員の移動負担が増えないかを同時に検証する必要があります。
選択肢6 施設一体型と施設分離型を、地域ごとに使い分ける――箕面市
大阪府箕面市には施設一体型と施設分離型の両方があり、市は施設形態にかかわらず全市で小中一貫教育を進めています。
施設一体型には、小中教員が子どもの姿や教育目標を共有しやすいという長所があります。同市の教員アンケートでも、施設一体型の方が、9年間を見通した組織的なカリキュラム研究を行いやすい傾向が示されています。
一方、同じ調査では、施設一体型勤務の教員の約9割が「活動場所・時間調整の煩雑さ」を課題に挙げ、約8割が合同行事実施時の煩雑さを課題と回答しています。体育館、プール、特別教室の利用、小中で異なる時間割、児童生徒の実態把握、教職員間の共通理解などに調整が必要だからです。
メリット
- 子どもの情報や教育目標を小中教員で共有しやすい
- 乗り入れ授業や合同研修を行いやすい
- 異学年交流を日常的に行える
- 管理機能や一部施設を共用できる
デメリット・条件
- 規模が大きいほど、体育館、運動場、特別教室の競合が起きやすい
- 時間割や行事の調整業務が増える
- 小学生と中学生では生活時間、身体発達、安全管理の条件が異なる
- 施設を共用するだけでは教員負担が減るとは限らず、調整担当者や十分な施設数が必要
施設一体型には利点がありますが、利点を生かすには規模、敷地、体育施設数、教員配置などの条件が必要です。「一体型か分離型か」だけでなく、予定する児童生徒数で実際に運営可能かを検証しなければなりません。
大規模な施設一体型には、教育上の利点と新たな負担がある
大阪府能勢町は、6小学校・2中学校を一つの施設一体型校へ統合しました。地域と連携したふるさと学習や放課後学習など、新しい教育活動を充実させた事例です。
一方、同町教育委員会は、スクールバス通学により日常的に体を動かす機会が減り、5年生・8年生の1週間の総運動時間が全国平均を下回っていることを課題として挙げています。そのため、統合後に体力向上策が必要になりました。
これは施設一体型を否定する材料ではありません。統合の効果だけでなく、統合によって新たに生じる問題と対策費まで事前に考える必要があるという教訓です。
大規模校を検討するときは、少なくとも次の項目を確認する必要があります。
・低学年を含む通学時間と、最長乗車時間
・スクールバスの台数、運転手、年間運行費、車両更新費
・体育館、グラウンド、プール、特別教室の必要数
・小学生と中学生の動線、時程、安全管理
・合同行事や施設利用を調整する教職員の負担
・地域の避難所、学童、地域活動をどう維持するか
・10年後、20年後の児童生徒数と余剰面積
桑名市で比較すべきなのは「現状維持」と「7校案」だけではない
全国の事例を踏まえると、桑名市では少なくとも次の案を同じ条件で比較できます。
| 比較案 | 内容 |
|---|---|
| A案 長寿命化中心 | 劣化状況を調査し、使用可能な校舎を計画的に改修する |
| B案 小学校の部分統合 | 複式学級や極小規模化が見込まれる小学校を中心に統合する |
| C案 学校群・施設分離型 | 校舎を残し、中学校区で合同授業、教員交流、小中一貫教育を行う |
| D案 低学年分校・サテライト | 低学年は地域、高学年は本校など、発達段階で通学先を分ける |
| E案 設備共用・複合化 | プール、給食、学童、公民館などを共用し、施設総量を減らす |
| F案 地域別組み合わせ | 長寿命化、部分統合、複合化を地域ごとに組み合わせる |
| G案 7校施設一体型 | 桑名市の計画どおり、施設一体型小中一貫校へ集約する |
比較期間は30~40年程度とし、少なくとも次の費用をすべて含める必要があります。
- 校舎の建設・改修・長寿命化費
- 用地、造成、道路、外構、備品
- 既存校の解体・跡地管理費
- 維持管理、光熱水費、設備更新費
- スクールバス、通学安全対策費
- 仮設校舎、引っ越し、統合準備費
- 地方債の元金・利息
- 国庫補助、地方交付税措置を反映した市の一般財源負担
- 避難所や地域施設を失う場合の代替費用
財政面だけでなく、次の教育・地域指標も並べるべきです。
- 1校当たり、1学級当たりの児童生徒数
- 最長通学距離・時間
- クラス替えの可否と合同授業の回数
- 教員の移動・会議・調整時間
- 体育館、運動場、特別教室の利用余力
- 子ども、保護者、教員、地域住民の意見
- 地域別の防災・避難所機能
- 開校時、10年後、20年後、30年後の余剰面積
選択肢を示してから、市民に意見を聞くべきではないか
学校再編に唯一の正解はありません。
小規模校には、クラス替えが難しい、集団活動が限られるなどの課題があります。一方、少人数だからこそ子ども一人ひとりを把握しやすく、地域との関係を築きやすい面もあります。
施設一体型小中一貫校には、教員連携や施設共用の利点があります。一方、大規模化すれば、通学、施設利用、行事、教員調整、将来の余剰面積という別の課題が生じます。
だからこそ、行政が最初に行うべきことは、特定の方式を唯一の選択肢として示すことではありません。
全国ですでに実施されている複数の方法を調べ、桑名市の学校ごとの児童生徒数、施設状態、地理、防災、財政条件に当てはめて比較することです。その上で、子ども、保護者、教員、地域住民へメリットとデメリットを説明し、意見を反映させる必要があります。
「ほかに方法がない」のではありません。全国には、校舎を残した小中一貫、部分統合、低学年分校、長寿命化、設備共用、地域別の組み合わせという実例があります。
桑名市に必要なのは、施設一体型の小中一貫校・義務教育学校へ統合するか、しないかという二択ではなく、子どもの教育環境を守りながら、財政と地域を持続可能にする方法を、複数案から、地域ごとに選べる状態にすることではないでしょうか。
