これまでの2回では、多度学園の実績を基準にした再編全体の整備規模と、国庫補助・地方債・地方交付税の仕組みを取り上げました。
しかし、学校にかかる費用は建設費だけではありません。
建物は、完成した後も数十年にわたって、点検、清掃、警備、光熱水費、修繕、設備更新などの費用がかかります。最後には解体や用途変更も必要です。
学校統廃合によって財政負担が減るかを判断するには、建設から解体までのライフサイクルコストで比較しなければなりません。
建設費は、建物にかかる費用の一部

文部科学省の資料で紹介されている中規模事務所建築の65年間モデルでは、費用の構成は次のようになっています。
・企画設計費:1.6%
・建設費:25.7%
・運用管理費:71.1%
・解体・再利用費:1.6%
このモデルは学校施設そのものを試算したものではありません。そのため、この比率を多度学園や今後の6校にそのまま掛け、40年・65年の総額を算出することは適切ではありません。
一方で、「建設費は建物の生涯費用の一部であり、完成後の費用が長く続く」という基本構造を理解する参考にはなります。
学校再編の比較では、少なくとも次の費用を含める必要があります。
統廃合・新設によって発生する費用
- 基本構想、設計、各種調査
- 新校舎、体育館、給食施設などの建設
- 用地取得、造成、地盤改良
- グラウンド、駐車場、外構
- 周辺道路、通学路、交通安全対策
- 家具、備品、ICT機器
- 仮設校舎、引っ越し
- 清掃、警備、点検
- 電気、ガス、水道
- 空調、照明、給排水設備の更新
- 校舎、体育館、屋根、外壁などの修繕
- スクールバスの購入、運転、燃料、点検、更新
- 大規模校に必要となる安全対策や施設管理
- 閉校から活用・解体までの維持管理
- 防犯、草刈り、設備点検
- アスベスト調査・除去
- 校舎・体育館・プールの解体
- 跡地整備
- 避難所や地域施設を失う場合の代替整備
学校数を減らせば、現在の施設にかかる維持費の一部は削減できます。
しかし、これらの新しい支出を差し引かなければ、自治体全体として本当に安くなるかは分かりません。
全国調査でも、統合には新たな費用が発生している
総務省が平成29・30年度の学校統合277件を調査した資料では、統合に伴って多額の費用を要したものとして、次の結果が示されています。
| 費目 | 該当事例 | 平均費用 |
|---|---|---|
| 校舎等の新増築・改修・解体 | 140件 | 約13億4,241万円 |
| スクールバスの導入・運行・維持管理・安全対策 | 70件 | 約2,274万円 |
また、スクールバスを導入していた事例は、統合前の97件から統合後には203件へ増えています。
もちろん、これらは規模も地域条件も異なる全国事例の平均であり、桑名市へそのまま当てはめることはできません。
それでも、統合によって校舎の維持費が減る一方、施設整備や通学対策という新たな費用が生じる構造は確認できます。
統廃合の財政効果がマイナスになった研究
日本教育行政学会年報に掲載された「学校統廃合政策の財政効果」では、ある基礎自治体の学校統廃合を、統合前後の財政統計から分析しています。
この事例では、統廃合により、学校当たり・児童生徒当たりの運営費などには削減効果が確認されました。(主に学級数・教職員数の減少によるもの)
一方で、巨額な施設整備費や統合準備費、通学支援などの不可避的な新たな費用も発生しました。
研究では、歳出削減、歳出増加、歳入の増減を合算した統廃合政策全体の財政効果は、分析期間中に正へ転じなかった(マイナスだった)とされています。
これは、すべての統廃合が財政的に損だという証明ではありません。
重要なのは、日常の学校運営費が減ることと、統廃合政策全体によって自治体の負担が減ることは、同じではないという点です。
統廃合によって施設費を抑えられる場合もある
一方、茨城県石岡市は、24校を維持して長寿命化する場合と、10校へ統合再編する場合を比較し、40年間の施設費を次のように試算しています。
- 24校を維持・長寿命化:約418億円
- 10校へ統合再編:約280億円
- 差額:約138億円
この試算では、統合再編の方が安いという結果です。
だからこそ必要なのは、「統廃合は必ず高い」「統廃合は必ず安い」という決めつけではなく、地域条件を反映した比較です。
学校の規模、既存校の劣化状況、新校の建設方法、スクールバス、解体、跡地利用などの条件が変われば、結論も変わります。
統廃合以外にも、施設費を抑える方法はある
学校施設の老朽化対策は、「現在の36校をそのまま残す」か「7校の大規模校へ集約する」かの二択ではありません。
総務省の事例集では、既存校を残しながら費用を抑える取り組みも紹介されています。
長寿命化・予防保全
壊れてから大規模修繕するのではなく、劣化状況を把握して計画的に改修し、校舎を長く使用します。建替え時期を分散できるため、年度ごとの支出を平準化できます。
減築
児童生徒数の減少に合わせ、使用しない部分を撤去し、維持管理する面積そのものを減らします。
複合化
学童、こども園、児童館、防災備蓄倉庫、図書館分館などを学校へ併設したり、体育館や音楽室、家庭科室を地域開放するなど、従来別々に存在していた公共施設を学校に集約します。
プールなどの共用
箱根町では、学校プールを廃止し、町立・民間プールを利用することで、1校当たり約3,000万円の改修費に加え、清掃、水質管理、ろ過機操作などの負担を削減した事例があります。
小学校だけの部分統合
複式学級が見込まれる学校や、地理的に近い学校を中心に統合し、中学校は現在の施設を活用する方法です。小規模校の課題対策と、全市一律の大規模校新設を分けて考えられます。
施設分離型の小中一貫教育
小学校と中学校を同じ建物へ統合しなくても、9年間のカリキュラム、教員の乗り入れ授業、情報共有、合同研修などは実施できます。
少子化の中で、大規模校が余剰施設になるリスク
新しい学校は、開校時だけでなく、10年後、20年後、30年後の児童生徒数を想定して規模を決める必要があります。
桑名市の推計では、光風小中一貫校はR15年度の2,234人からR25年度には1,721人へ、陵成小中一貫校は1,562人から1,223人へ減少します。
光風では10年間で513人、陵成では339人の減少です。(なお、子ども・学区ごと・長期の推計になるため、この推計自体、そもそも精度が高くありません)
開校時の人数に合わせて大規模な施設を建設すれば、少子化が進んだ後に空き教室や余剰施設が増える可能性があります。使用しない教室が増えても、建物全体の屋根、外壁、配管、空調、警備などの費用が同じ割合で減るとは限りません。
また、少人数学級を実現する国の政策により、小中学校の学級定員が35人から25人へと減った場合、逆に教室を増やさないといけなくなるかもしれません。
いずれにしても、少子化対策として建設した学校が、将来の過大施設にならないかを検証する必要があります。
比較するなら、同じ条件で
桑名市の学校施設適正管理計画では、令和2年度時点の試算として、現在の学校施設を長寿命化・平準化した場合、年平均約20.4億円、45年間で約919億円という金額が示されています。
一方、7校へ再編した場合の長期費用は示されていません。
ここで、既存校維持の919億円と、本連載で試算した新設整備費約865億~1,016億円を、そのまま比較することはできません。
919億円には一定期間の改修・更新費が含まれる一方、865億~1,016億円は、多度学園の実績を人数に比例させた初期整備費のみの参考値だからです。費用の範囲と期間が異なります。
公平に比べるためには、次の4案を同じ期間、同じ物価条件、同じ費用項目で試算する必要があります。
| 案 | 内容 |
|---|---|
| A案 | 現在の学校を基本的に残し、長寿命化する |
| B案 | 小規模校を中心に部分統合し、既存校を改修する |
| C案 | 長寿命化、減築、複合化、設備共用、一部の小学校同士の部分統合を地域別に組み合わせる |
| D案 | 7校の施設一体型小中一貫校へ集約する |
各案について、少なくとも次の金額を30~40年間で比較すべきです。
- 建設・改修・解体費
- 維持管理・光熱水費
- 設備更新・大規模修繕費
- スクールバス費
- 閉校施設・跡地の管理費
- 地方債の元金・利息
- 国・県の支出と市の実質負担
- 避難所や地域施設を失う場合の代替費
さらに、開校時、10年後、20年後、30年後の児童生徒数と余剰面積も示す必要があります。
特に重要な比較対象は、既存校を地域ごとに選別し、長寿命化、減築、部分統合、公共施設との複合化を組み合わせるC案と、7校の大規模な施設一体型小中一貫校を新設するD案です。
両案を同じ児童生徒数、同じ物価上昇率、同じ比較期間で試算しなければ、どちらが財政的に有利かは判断できません。
「統廃合ありき」ではなく、数字を並べた比較を
児童生徒数が極端に減り、複式学級の維持が難しくなる地域では、学校統合が必要となる場合もあります。
しかし、複式学級対策としての小学校統合、老朽化対策としての改修、公共施設削減としての複合化、小中一貫教育としての教育課程連携は、本来それぞれ分けて検討できる政策です。
これらをすべて「施設一体型義務教育学校の新設」という一つの方法で解決しようとすれば、学校が必要以上に大規模になり、財政面でも過大投資となるおそれがあります。
統廃合した方が必ず安いとは限りません。
だからこそ、結論を先に決めるのではなく、複数案の長期費用を同じ条件で比較する必要があります。
桑名市が示すべきなのは、「学校数や延床面積が減る」という説明ではありません。子どもたちの教育環境を守りながら、将来世代の負担を最も小さくできる方法は何かという、具体的な比較です。
総事業費を試算しないまま、「新設する方が長期的な財政負担を軽減できる」と結論づけることはできません。
計画を実行に移す前に、長寿命化、部分統合、減築・複合化、大規模統合のライフサイクルコストを公表し、市民と議会が判断できる材料を示すべきです。
第3回の主な資料
- 総務省「学校規模の適正化及び少子化に対応した学校教育の充実策に関する実態調査」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000638148.pdf - 文部科学省「小中高等学校の統廃合の現状と課題」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000638148.pdf - 櫻井直輝「学校統廃合政策の財政効果―基礎自治体に着目した事例分析―」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jeas/38/0/38_KJ00008957430/_article/-char/ja/ - 石岡市「学校施設個別施設計画」
https://www.city.ishioka.lg.jp/data/doc/1683675612_doc_221_0.pdf - 桑名市「学校施設適正管理計画」
- 桑名市「桑名市立小中学校再編計画」
- 桑名市「桑名市立小中学校再編計画(案)に対する意見と市の考え方」
https://www.city.kuwana.lg.jp/documents/12676/pabukomekaitou.pdf
