子どもが減っている。校舎が古くなっている。
桑名市の学校が抱える課題に、対応が必要なのは確かです。だからこそ、学校をどのように残し、どのように整えるかは、複数の方法を十分に比較検討した上で、地域の声を丁寧に聞きながら、決めていくのが行政の責任だと考えます。
学校を集約する方法。今の学校を改修して使う方法。学校同士の連携を強める方法。地域によっては、学区の見直しや小学校同士の統合を組み合わせる方法も考えられます。
それらを比べたうえで、なぜ「全市一律」での、施設一体型の小中一貫校・義務教育学校を基本とする方針を選んだのでしょうか。
私たちは、その検討過程と判断根拠を確認するため、情報公開請求を行いました。
何を請求したのか
請求したのは、すでに市が保有している比較・評価・意思決定の文書です。新たな資料の作成を求めたものではありません。
内容は、大きく次の3点です。
- ほかの方法と比べたか:施設を一つにする方法、別々の施設で一貫教育を行う方法、既存の小学校・中学校を残して連携を強める方法など。
- 地域ごとの影響を評価したか:学校規模、通学の負担と安全、防災、学童保育、地域コミュニティ、教職員負担、財政負担など。
- なぜ全市に共通の基本方針を適用するのか:地域ごとの事情が異なる中で、その方針が最善と判断した根拠。
市の回答は「作成していないため不存在」
2026年9月29日付の公文書部分開示決定通知書(教新第152号の2)では、請求した6項目のうち、次の3項目について、備考欄に「作成していないため不存在」と記載されています。
| 請求項目 | 求めた文書の要旨 | 市の回答 |
|---|---|---|
| ② | 義務教育学校などと、既存の小学校・中学校を残して連携を強化する方法を比較した文書 | 作成していないため不存在 |
| ④ | 地域ごとの通学・防災・学童・学校規模・学校跡地・財政負担などを評価した文書 | 作成していないため不存在 |
| ⑤ | 請求対象の選択肢に関する比較表、評価基準・結果、リスク評価、会議・協議・決裁等の記録 | 作成していないため不存在 |
一方、①・③・⑥については、施設形態の説明資料、新学校区割案の検討資料、学校施設の管理計画、複合化に関する報告書の一部、過去の答申や教育委員会の議事録、多度地区の校種に関する提言などが示されました。
つまり、すべての資料がなかったわけではありません。しかし、私たちが確認したかった比較や地域別評価に当たる文書について、市は「作成していない」と回答しています。
問題① 仕組みの説明だけでは、選んだ理由がわからない
施設一体型・隣接型・分離型の違いを説明する資料を見れば、それぞれの仕組みはわかります。
しかし、それだけでは、桑名市の子どもたちにとって、どの方法がどの点で優れているのかはわかりません。
小学校と中学校が連携すること、校舎を一つにまとめること、学校種を義務教育学校にすること。それぞれに、選ぶ理由を説明する必要があります。
全国では、99%が従来の小学校・中学校のままで小中一貫教育を進めているのに、なぜ桑名市では、全市で義務教育学校に変える必要があるのか。
それほど義務教育学校に優位性があるのであれば、なぜ全国では、いまだに義務教育学校の数が1%にも満たないのか?
今回の回答では、既存校を残して連携を強化する方法との比較文書は、不存在とされています。これは、方針の妥当性を市民が確かめるうえで、大きな問題です。
問題② 地域ごとに実情が異なるのに、なぜ基本方針は共通なのか
桑名市は、学校教育あり方検討委員会の答申が、「施設一体型の小中一貫校にする根拠」だと説明しています。
ですが、地域ごとの違いは、この委員会の議論の出発点でも指摘されていました。
第1回桑名市学校教育あり方検討委員会(2016年5月11日)では、委員が次のように発言しています。
地域によって全然様子が違います。
委員は、多度、長島、団地では望ましい小中一貫のあり方が異なるとして、市のビジョンや、委員会でどこまで検討するのかを質問しました。
これに対して、市の事務局も次のように回答しています。
地域毎にそれぞれ異なる事情がありますことから、それぞれの地域にあったかたちで進めていただくようなご提案をいただきたいと考えています。
※引用は文字間の空白・改行を整えています。
つまり、地域差は保護者や住民だけが訴えていることではありません。市の事務局も、地域ごとに事情が異なると認め、それに合った提案を委員会に求めていました。
子どもの人数も、学校までの距離も、道路事情も、校舎の状態も、地域によって違います。
ある地域では集約が有効でも、別の地域では、通学の負担や学校規模、地域の防災拠点への影響を重く考える必要があるかもしれません。
地域差を認めたうえで、なぜ施設一体型・義務教育学校を基本とする共通方針が、それぞれの地域でも適切だと判断したのでしょうか。
地域別の影響評価を求めた文書は、今回「作成していないため不存在」とされています。だからこそ、地域ごとに方法を選び分ける案と比べた結果、どの利点がどの不利益を上回ると評価したのか、その根拠を示してほしいのです。
問題③ 答申があっても、比較の根拠は必要です
市は、基本方針の根拠として、2017年のあり方検討委員会の答申や、多度地区の校種に関する提言、教育委員会の議事録などを示しています。
ですが、私たちが知りたいのは、その結論に至った合理的な検討過程であり、結論を支える比較・評価の内容=証拠です。
市は地域での説明会で「多度学園の検証は行なっていないが(開校前なので)、委員会などで十分な検討は行った」という趣旨の説明を繰り返しています。ですが、その「十分な検討」の過程・内容を、市民には十分公開していないのが実情です。
なぜ既存校を残す案よりよいのか。地域差による不利益を、どう評価したのか。多度地区で学校種を選んだ判断を、ほかの地域でも採用する根拠は何なのか。
答申の結論を示すだけでは、こうした疑問は解消しません。
子どもと地域の将来を、比較できる資料で判断したい
今回の通知から、「検討を一切していない」とは考えていません。一部については検討されていますし、文書の不存在と検討そのものの有無は、区別する必要があるからです。
それでも、市民が計画の妥当性を確かめるために求めた比較・評価の文書について、「作成していない」と回答された事実は重いと考えます。
学校を集約する案と残す案を、教育、通学、防災、財政、地域への影響という共通の観点で比べる。その結果を示し、子どもや保護者、地域の人たちと話し合う。
なぜ、この地域でも、この方法が最善なのか。
その問いに、具体的な比較と根拠で答えてほしい。私たちは、地域ごとの選択肢を改めて比較し、その結果を公開したうえで方針を見直すことを求めます。
参考資料
- 2026年9月8日付「情報公開請求02 再編方針と代替案の比較記録」
- 桑名市教育委員会「公文書部分開示決定通知書」2026年9月29日付、教新第152号の2(実施機関が特定した公文書の欄・備考欄)
- 第4回桑名市学校教育あり方検討委員会資料「小中一貫教育の施設形態について」
- 2017年4月 望ましい学校教育のあり方について 答申 本文5~9ページ
- 同答申 資料編 資料12
