学校は「リストラされるべき公共施設」なのか? 桑名市の33%削減目標と学校再編

桑名市は、公共施設の総量削減目標として、令和46年度(2064年)までの50年間で、公共建築物の床面積を33%削減する方針を掲げています。

公共施設の老朽化が進み、維持管理や更新に多額の費用がかかることは事実です。人口減少や財政負担を考えれば、公共施設のあり方を見直すこと自体は避けて通れない課題です。

しかし、ここで慎重に考えなければならないことがあります。

それは、学校を他の公共施設と同じように「面積」や「維持費」だけで削減対象にしてよいのか、という問題です。

桑名市の公共施設のなかで、学校教育施設は約45%と非常に大きな割合を占めています。つまり、公共施設の総量を大きく削減しようとすれば、学校が削減対象になりやすい構造があります。

しかし、学校は単なる建物ではありません。

学校は、子どもたちが毎日通い、学び、友達と関わり、成長していく場所です。
教育を受ける権利を具体的に支える施設です。

また、地域にとっては、防災拠点であり、地域活動の場であり、まちのつながりを支える拠点でもあります。

だからこそ、学校再編を公共施設削減の一部として進めるのであれば、単に「古いから」「維持費がかかるから」「面積を減らす必要があるから」という理由だけでは不十分です。

学校が公共施設の大部分を占めることは、学校を削減しやすい理由ではなく、学校再編が市民生活に与える影響が極めて大きいことを示しています

目次

なぜ33%なのか?削減目標の根拠

まず問われるべきは、33%という削減目標の根拠です。

桑名市の「公共施設等総合管理計画」では、公共建築物の更新費用について、次のような計算が示されています。

  • 公共建築物の将来更新費用:44.7億円/年
  • 財政負担可能額:15.0億円/年
  • 不足額:29.7億円/年
  • 公共建築物の更新費+運営費:91.6億円/年
  • 29.7億円 ÷ 91.6億円 = 約33%

つまり、33%という数字は、公共建築物の更新費用不足額29.7億円を、更新費用と運営費の合計91.6億円で割って算出されたものです。

言い換えれば、この33%という削減目標は、教育・福祉・子育て・防災・地域活動などの公共サービスの必要水準から積み上げられた数字ではありません。財政上の不足額をどう埋めるか、という計算から導かれた数字です。

もちろん、財政負担の問題を無視することはできません。老朽化対策も必要です。

しかし、財政上の数字から逆算された削減目標を、そのまま学校再編や公共サービス削減の根拠にしてよいのでしょうか。ここは、市民に対して丁寧に説明されるべき重要な点です。

公共施設削減は、単なる財政改革ではない

公共施設の見直しは、民間企業のコストカットとは違います。

公共施設は、住民の生活や福祉、教育、文化、地域参加を支えるものです。公共の福祉に資するものであり、住民の権利を支える基盤でもあります。

だから本来、公共施設の削減を考えるときに最初に問うべきなのは、「何%減らすか」ではありません。

まず問うべきなのは、次のようなことです。

・教育、福祉、子育て、防災、地域活動などの公共サービスを、どの水準で維持するのか
・住民の権利や生活基盤を後退させないために、何を守るべきなのか
・地域によって負担が偏らないように、どのような配慮が必要なのか
・住民や利用者の声を、計画にどう反映するのか

公共施設削減は、単なる財政改革ではありません。公共サービスの水準をどこまで維持するのか、住民の権利をどう保障するのか、という問題です。

1. 数値目標だけが先行していないか?

本来、公共施設マネジメントでは、まず「どの公共サービスを、どの水準で維持するのか」を検討する必要があります。

学校であれば、教育環境、通学距離、安全性、特別支援、少人数教育、防災拠点としての機能。
福祉施設であれば、高齢者、障害者、子育て世帯、移動手段の乏しい住民への影響。
地域施設であれば、地域活動、住民自治、災害時の支え合い。

これらを検討したうえで、施設の統合・複合化・長寿命化・再配置を考えるべきです。

ところが、33%削減という数値目標が先に置かれると、議論は「どの公共サービスを守るか」ではなく、「どの施設を削るか」に傾きがちです。その結果、教育や福祉、地域活動、防災など、住民の暮らしを支える公共サービスの質が後退するおそれがあります。

学校や公共施設が身近からなくなれば、子育て世代はその地域への移住を避け、さらに少子化・人口減少が加速するという悪循環(スパイラル)を招く危険性もあります。

2. 公共施設を「コスト」として見すぎていないか?

学校、保育、福祉、図書館、公民館、地域施設、防災拠点は、単なる建物ではありません。
これらは、住民の生活と権利を支える公共サービスの基盤です。

もちろん、老朽化対策や財政負担の平準化は必要です。しかし、公共施設を「維持費がかかる建物」としてだけ見れば、教育や福祉、地域コミュニティの価値は数字に表れにくくなります。

特に、利用者が少ない施設ほど「非効率」とされやすいですが、福祉や教育では、少数者のためにサービスを維持すること自体が公共の役割です。

たとえば、周辺部に住む子どもの通学環境を守ること。高齢者や障害のある人が身近な場所でサービスを受けられること。地域の人が集まり、防災や自治の拠点として使える場所を残すこと。

これらは、単純な採算性や利用者数だけでは測れない公共的な価値です。

3. 一部の人に負担が偏っていないか?

公共施設の削減や学校の統廃合は、住民に一律の影響を与えるわけではありません。

中心部に住む人、車を持つ人、送迎できる家庭、健康な人には影響が小さくても、周辺部に住む人、高齢者、障害のある人、子ども、車を使えない人、共働き・ひとり親家庭には大きな負担になる可能性があります。

学校統廃合なら、通学時間や距離、送迎、安全性の差。
福祉施設や地域施設の統廃合なら、移動負担や利用機会の差。
公民館や地域拠点の削減なら、地域活動や住民参加の機会の差。 など

つまり、数値上は「効率化」に見えても、実際には地域や家庭環境によって負担が偏り、公共サービスの平等性が損なわれる可能性があります。

4. 民主性が損なわれていないか?

公共サービスの水準を下げる可能性がある計画であれば、本来は、十分な情報公開と住民参加、議会での議論が不可欠です。

住民に求められるのは、決まった計画への理解ではなく、計画を決める段階からの参加です。

・どの公共サービスを守るのか
・どの地域にどの機能が必要なのか
・どの水準を下回ってはいけないのか
・統廃合や複合化以外の選択肢はないのか
・長寿命化や減築、段階的な改修では対応できないのか


こうした点を、住民とともに議論する必要があります。

数値ありきの計画によって、教育や福祉という住民の基本的人権や公共サービスの質、平等性、民主性が犠牲にされていないか?

ここを、私たちは慎重に見ていく必要があります。

公共サービスの視点から見た「学校」の5つの視点

学校施設については、次の5つの視点から検討する必要があると考えます。

1つ目、専門性・科学性

学校には、普通教室だけでなく、運動場、体育館、理科室、音楽室、図工室、家庭科室、図書室など、教育活動に必要な施設があります。これらは、子どもたちが豊かな教育を受けるために整備されてきたものです。

統廃合や複合化によって、こうした教育環境が後退しないのか。大規模化によって、施設を使いたいときに十分使えなくならないのか。科学的な検証が必要です。

2つ目、人権保障と法令遵守

学校施設は、子どもたちの教育を受ける権利を保障するためのものです。そのため、安全性、通学負担、災害時の対応、子どもの心身への影響などを十分に検討しなければなりません。

遠距離通学になる子どもが増えたり、通学時間が長くなったりする場合、それは単なる不便ではありません。子どもたちの生活時間、体力、安全、家庭の負担に関わる問題です。

3つ目、実質的平等性

学校統廃合は、住んでいる地域によって影響が大きく変わります。

学校の近くに住む子どもと、遠くから通う子ども。
保護者が送迎できる家庭と、そうでない家庭。
スクールバスで通わないといけない子と、徒歩で通える子。

統廃合によって、地域や家庭環境による負担の差が広がる可能性があります。これは、教育の機会均等という観点からも慎重に考えるべき問題です。

4つ目、民主性

学校は地域に深く関わる施設です。だからこそ、子ども、保護者、教職員、地域住民の意見を十分に聴き、情報を公開し、議会も含めた民主的な議論を行う必要があります。

行政が計画を決め、市民には説明だけを行う。
そのような進め方では、地域の納得は得られません。

とくに学校再編は、一度進めれば元に戻すのは困難です。だからこそ、計画段階から市民が関与し、市民の声が反映される仕組みが必要です。

5つ目、安定性

学校施設には、長期にわたって子どもたちを安全に受け入れる堅牢さと、安定した管理体制が求められます。

短期的な効率や財政効果だけを優先すると、将来の教育環境や地域機能に大きな影響を残す可能性があります。

削減率ではなく、守るべき公共サービスから議論を

公共施設の老朽化対策は必要です。
財政負担の平準化も重要です。
学校施設のあり方を見直すこと自体を否定するものではありません。

しかし、その方法が「全市一律の大規模統廃合」でよいのか。
学校を公共施設削減目標の達成手段として扱ってよいのか。
長寿命化、減築、改修、分散配置、校区ごとの個別検討など、他の選択肢は十分に比較されたのか。

ここを曖昧にしたまま、学校再編を進めるべきではありません。

学校は、子どもたちの学ぶ権利を支える場所です。
地域の安心とつながりを支える場所です。

だからこそ、学校を「削減すべき床面積」としてではなく、「守るべき公共の基盤」として考える必要があります。

桑名市の学校再編に必要なのは、削減目標ありきの議論ではありません。

子どもたちにとって本当に必要な教育環境は何か。
地域にとって学校はどのような意味を持つのか。
将来世代にどのようなまちを残すのか。

その視点から、もう一度、丁寧に議論するべきではないでしょうか。

参考:

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