去年1年で、学校再編に関する知識を大量にインプットしました。その上で、現時点で私(児島)が考える、桑名の学校再編の代替案をお伝えしたいと思います。
課題認識については、桑名市教育委員会が、今回の学校再編計画の根拠としている、2016年の「桑名市学校教育あり方検討委員会」の議事録をベースにします。
現在、桑名市が抱えている教育課題
| 課題 | 議事録上の記載 |
|---|---|
| 学校施設の老朽化 | 雨漏り、壁、屋上、老朽化、修繕不足を繰り返し指摘。雨漏りや地震による天井崩落の危険性など。 |
| 教育予算の少なさ | 予算不足により、修繕がままならず、教員の待遇も低い。 児童生徒数が減っている一方で学校数は以前より増え、維持管理費がかかり、集中修繕ができない。 |
| 教員の多忙化 | 本来の業務以外が多く、長時間労働。本来業務30%、70%が雑務の状態。学ぶ/教える喜びを子どもに与えたいという教師の苦痛の種。教育の質低下リスク・教員志望者の減少につながる。 |
| 小規模校の課題 | グループ学習・チームスポーツなどが困難。複式学級の場合、児童も教員も負担あり。固定化した人間関係、「中1ギャップ」、など。 |
| 大規模校の課題 | 体育館などの施設調整・社会科見学の手配・一人ひとりの子どもを細かく見る難しさ、運動や遊び場の制約など。 |
| 地域ごとの事情 | 多度、長島、旧市街、団地などでは事情が違う。 |
| 分散進学 | アンケートでは、小6は「できれば同じ中学校に行きたい」という回答が7割だが、保護者・市民は「分散進学を容認」が過半数。 |
上記の課題に加えて、
・総務省が推進する「公共施設削減」の圧力
・文科省が推進する「小中一貫教育」の流れ
という背景もあります。
あり方検討委員会の議事録で見えてくること
1.施設の老朽化は、早急な対応が必要
学校施設の老朽化とメンテナンス不足による、安全面や衛生面での緊急課題。
その根本原因は、施設の多さと「予算不足」です。
これは再編とは切り離すべき課題です。「どうせ統廃合するから修繕を後回しにする」は、子どもの安全を人質にする構造になります。雨漏り、外壁、天井、体育館、トイレ、避難所機能など、命と安全に関わる部分は、再編計画と関係なく即時に対応しなければなりません。
2.学校規模の「上下限」を明確にする
小さすぎる学校と大きすぎる学校、どちらも教育上・運営上の課題が報告されています。
議事録では、小規模校の利点が数多く挙げられ、大規模校の難しさも現場から声があがっています。
例えば、副委員長である鈴木教授は「小規模校では競争力が育たないと聞くが、地方の小さな小中学校を出てきた子の方が大学で頑張っているように感じます。」と発言しています。
そこで、桑名市として、「教育上」望ましい学校規模の下限と上限を設定する必要があると考えます。たとえ義務教育学校を採用する場合でも、課題が出やすい過大規模校は避けるべきです。「教育は国家百年の大計」という言葉がある通り、予算や効率優先ではなく、将来を担う子どもたちへの教育的にどちらが良いか、という視点で考えてもらいたいです。
また、学級数だけでなく、1学級あたりの人数まで考えることが大切です。OECD諸国では20人前後の少人数学級がトレンドで、定数が変われば最適な学校規模も変わるからです。
3.地域別に解決策を考える
あり方検討委員会で「地域によって適切な小中一貫教育の望ましい形はとても違う」と発言されていた通り、地域ごとの課題やニーズは異なるため、地域別に解決策を考えることが大切です。
・1学年10人未満の学級が続き、今後も児童数の増加を見込みにくい学校。
・現時点でも大規模校による課題がみられる学校。
・老朽化が深刻な学校。そうでない学校。
・地域拠点性が強い学校。
・再開発などにより、人口増が見込める地域。
・地理的に通学負担の大きい地域。 など
「全市一律で大規模な義務教育学校に再編する」という方針は、こうした地域の実情を反映していません。
桑名市が抱えている課題の本質とは?
今回の学校再編で解決すべき、本来の「問い」は
教育環境の質・安全性・財政持続性・教員負担・地域機能をどう同時に改善するか?
それに対して桑名市は
「学校の数を5分の1に減らす」「小中一貫校(義務教育学校)にする」を答えとしています。
ですが、桑名市の再編計画では、
・大規模校化しやすく、教育の質が低下しやすい
・学区が広がり通学距離が伸びて、通学の危険性が高まる
・多額の建設費により、財政が逼迫(ひっぱく)しやすい
・スクールバスを導入する場合、多額の維持コストがかかる
・特別教室や行事の調整、会議などが雑務が増え、教員の多忙化につながる
・小学校区で成り立っていた地域コミュニティが崩壊しやすい
といった課題が生じる可能性があり、上記の問いを改善できるのか、大いに疑問です。
だからこそ、
学校施設・公共施設・人員・地域機能を横断して再設計する仕組みを考える必要性があります。
本当の制約は、「教育予算の少なさ」だけではない
教育予算の少なさは、大きな原因です。ですが、本当の制約は下記にあります。
学校は、教育施設・防災拠点・地域コミュニティ・子育て支援(子どもの居場所)などの役割・機能を実質的に背負っているのに、予算は教育委員会単独、運営は教職員依存、施設修繕も学校施設予算の範囲内に抑えられていることに無理がある。
ですから、
学校を“教育施設”としてだけでなく、“地域の公共インフラ”として位置づけ直し、福祉・防災・地域振興・子育て関連予算も含めて施設更新に使える設計にすることが大事だと考えます。
つまり、学校をなくすのではなく、学校を核として、公共施設の機能を学校に集約させる、という考え方です。
学校に公共施設の機能を集約する「縮充」
前述の通り、学校再編を、教育委員会の専任事項、教育予算を基本とした計画、としていることが大きな問題です。
学校は教育施設という役割にとどまらず、まちづくりの根幹を担う公共施設です。だからこそ、複数の部署を横断するプロジェクトとして十分な検討を行い、教育予算だけでなく、関連する予算も含めて財源にすることでが大切だと考えます。
防災、福祉、子育て、地域交流、図書館、公民館、学童・児童館、食育、幼稚園・保育園などを含めた複合施設にすることで(これら全てを一体にするという意味ではないです)、各部署の予算や人員を充当するのが現実的ではないでしょうか。
条件1. 管理業務の負担を教員にさせない
学校を多機能化して集約する場合、先生たちの負担が増えないよう、管理業務は別の運営主体が行うことが大切です。
福祉部局や地域コミュニティ部局、指定管理者、NPO、社協、民間事業者などが考えられます。
学校の先生が教育に集中できるよう、施設の鍵管理、利用調整、高齢者事業、防災備蓄管理、地域イベント運営まで先生が担う設計にしてはいけません。
条件2. 学校に集約する機能を選別する
何でも学校と一つにすればよいわけではありません。安全面や騒音面などを配慮する必要があるからです。不特定多数が頻繁に出入りする施設、騒音・駐車場問題が大きい公共施設の機能は、慎重に分ける必要があります。
相性が良いのは、学童・児童館、子育て支援、図書館、防災備蓄、避難所機能、高齢者の軽い交流拠点、地域学習室、体育館や音楽教室・家庭科室などの開放です。
教員負担への4つの対策
①予算不足・待遇低下による人材不足
最も根本的な課題です。ただし教員給与の骨格は国・県が決めるため、桑名市単独では動かしにくいのも事実です。だからこそ、施設の複合化で浮いた予算を人件費・処遇改善に振り向けるのが良いのではないでしょうか。
②施設のメンテナンス業務
これは本来、教員がやるべき仕事ではありません。複合化により専門の施設管理スタッフを巡回させる財源ができれば、教員はその業務から切り離せます。現状は予算不足ゆえに教員が細かいメンテ対応まで吸収している構造なので、財源問題の解決が直接効きます。
③小中一貫教育による雑務増加
議事録でも「分離型での小中連携は移動・会議が増えて負担が増す」という声がある一方、「施設一体型にしても今度は9年分の子どもとの関係管理が増える」という指摘もあります。つまりどちらの形態でも負担が増える構造になっており、小中一貫そのものの設計を見直す必要があるのではないでしょうか。
④デジタル化による負担
通常授業で先生に無理やりデジタル機器を使わせる必要はないはずです。教育効果の面でも、紙に書くという行為が学習を促す、という研究報告があります。デジタルツールの使い方を教えるのと、教科の本質を教えるのは別のスキルです。ですから、デジタル系の授業は、ICT支援員・デジタル専門家へ外出しするのが良いと考えます。
