桑名市の学校再編計画

 桑名市は 現在の小中学校36校から、全ての小学校と明正中学校・成徳中学校を廃校にして、7校だけの義務教育学校(施設一体型の小中一貫校 )にする計画 (原案)を提示しました。

 この「小中学校再編計画策定事業」では、(建設設計コンサルタント会社への事業支援委託費を含みながら)令和5年から令和7年の3年間で3,000万円超えの事業費予算で、小中学校再編計画を作成する予定です。

 その原案が3月21日に出され、事業期間令和8年3月末までに策定決定を予定しています。地域説明のスケジュールは8月までで、現在5月31から6月8日までの期間に、たった8回の地域説明会を予定しているのみです。説明会は8回で済ます予定を、3月の市議会で答弁しています。地域説明会を開始し合意を得たら、モデル校の多度学園の開校を待たずに(令和8年4月開校)、全市の計画を決定する予定です。

 義務教育学校とは小学校と中学校の区別のない、9年生の新たな学校種別です。桑名市の教育制度が今、大きく変更されようとしています。

目次

桑名市の学校統廃合計画

学校区割R13年の児童生徒数廃校となる小学校
(明正中・成徳中も廃校)
①光風小中一貫校区2,218人精義小、益世小、修徳小、大成小、深谷小、大和小
②陽和小中一貫校区1,156人日進小、立教小、城東小、城南小
③正和小中一貫校区1,475人桑部小、在良小、七和小、久米小
④陵成小中一貫校区1,721人大山田東小、大山田南小、藤が丘小
⑤光陵小中一貫校区917人大山田北小、大山田西小、星見ヶ丘小
⑥長島小中一貫校区635人長島北部小、長島中部小、伊曽島小
⑦多度学園校区
(R8年4月開校)
開校時推計
842人
多度中小、多度北小、多度東小、多度青葉小

小中一貫校の適正規模は、児童・生徒数600〜1000人と、小中一貫校を実施している学校ですでに実証されています。ですが、桑名市の計画案では、1,000人を超えるマンモス校が7校中4校となっています。

全国の他の義務教育学校の生徒数

出典:大阪教育文化センター「もうやめよう !「小中一貫」・学校統廃合 Q&A」

地域義務教育学校名生徒児童数
茨城県つくば市みどりの学園1804
学園の森1795
春日学園1005
秀峰筑波989
東京都江東区有明西学園1294
東京都品川区品川学園1135
豊葉の杜学園1035
八王子市いずみの森1347

参考:桑名市議会議員たやなおみニュース

桑名市学校再編説明会の内容

桑名市立小中学校再編計画(原案)の論点

義務教育学校である必要性がない

桑名市は、義務教育学校に統合する必要性として、「一定の集団規模を確保し、多様な価値観に触れることが、生きる力を育む」としています。 ですが、特に小学校年代の子どもたちは、小さい集団で安心して通える方が、ストレスや不安が少なく、自己肯定感や自信を養いやすいのではないでしょうか?

実際に、大規模な複数の研究では子どものクラスは「15人前後」が最も効果的と報告されています。国際的に見ても、OECDの平均は1学級21人で、過去10年間でこの平均値は毎年下がっています。

また、小中一貫教育に関しては、小中学校が分離している既存の枠組みでも、ほとんど対応できることばかりです。加えて、根拠の一つとして挙げられていた「中1ギャップ(小学校から中学校へ上がることへの戸惑いや不安)」に関しては、義務教育学校になったとしても解消されないという報告もされています。

さらに、義務教育学校になることでのメリット(施設が綺麗になる)の説明だけで、デメリットや先行事例の検証については説明がありません。

既存の学校の敷地内での建て替えは「不可能」ではない

桑名市の学校の老朽化は非常に深刻。そのため、学校の建て替えや修繕は急務です。(そもそもなぜ60年以上経つまで建て替えが行われてこなかったのでしょうか?桑名市においては、子どもの命や教育への優先順位が低いとしか思えません。)

桑名市は、同一敷地内での建替えは「不可能」としていますが、工事を段階的に行う、工事時間を制限する、車両の出入り場所を限定する、体育のみ別の場所で行う、などの工夫をすれば、対応は可能なはずです。実際、他の地域では同一敷地内での建替え工事を無事に行なっています

子どもの声を聞いていない

「計画策定にあたり配慮すべき事項」ページなども含め、桑名市の資料では、当事者である子どもの声をどう聞くかについての説明がありません。小学校単位での説明会や保育園・幼稚園での説明会も、市民からの要望がない限り予定していません。

質疑応答の際に教育長は「現在、子ども向けの動画を作成しており、それをホームページに掲載して見てもらう予定」との回答をしていましたが、それで子どもたちへの説明責任を果たし、子どもたちの声を聞くことになる、と考えているのでしょうか?

先行するつくば市では、義務教育学校に再編した結果、不登校児が急増しました。他にも、大阪では学校の統廃合を苦に小5の子どもが自殺した痛ましい事件が起きたり、東京都久留米市や高知県土佐清水市では大規模な「荒れ」が発生したりしています。これらは、子どもの声を聞かずに強引に学校の統廃合を推し進めたことへの、子どもたちの叫びなのではないでしょうか?

こどもの権利条約 第12条(1994年 日本批准)

子どもが自分の意見を自由に表明する権利を保障し、その意見を年齢や成熟度に応じて適切に考慮することを定めています。具体的には、子どもは自分に影響を及ぼすあらゆる事項について、自由に意見を表明する権利を持ち、その意見は、子どもの発達段階に応じて十分に考慮されなければなりません。

こども基本法 第11条 (2023年 施行)

国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となる、こども又はこどもを養育する者、その他の関係者の意見を反映させるために、必要な措置を講ずるものとする

なお、兵庫県川西市では、こどもたちが自分たちの声をニュース(紙面)にして地域に配布し、小学校体育館での説明会にも子どもが多数集まり発言したことで、小学校の統廃合計画を白紙撤回させた事例があります。高知県四万十市でもこどもたちが「子どもの命と権利を守って」と署名活動や議会請願を行い、地域を動かしました。

地域のコミュニティが崩壊し、地域が衰退する

学校は、地域の文化やコミュニティの中心です。地域の小中学校がなくなることで、住民同士の関係が希薄になったり、地域ごとの課題を解決できなくなったり、文化が消滅したりする可能性もあります。これまで行われてきた学校でのお祭りや地域行事がなくなり、地域の最小単位が大きくなることで住民同士が疎遠になりやすくなります。

先行する兵庫県丹波市青垣町では、学校の統廃合を機に子育て世代を中心に著しい人口減少が発生し、町の衰退と過疎化が急速に進んでしまった、というケースもあります。

市民の声が置き去りにされている

学校再編計画は、本来であれば、住民投票を行なって然るべきレベルの重要な計画です。教育や子育て、地域生活に多大な影響を及ぼすからです。にも関わらず、現時点で市民との十分な議論の場は設けられているとは言い難い状況です。

地域ごとに課題が異なるにも関わらず、来年開校する多度学園の効果検証もしないまま、「全市一律での義務教育学校化」を進めており、説明会は中学校区単位で短期間で済ます、という状況に、市民をはじめ一部の市議会議員からも強く反対の声が上がっています。本来は、小学校や保育園などに出向き、丁寧に子どもや保護者、地域と対話を重ねる必要がある、重要な問題です。

文科省 平成27年 公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引き

地域とともにある学校づくりが求められていることを踏まえれば、学校統合の適否を検討する上では、学校教育の直接の受益者である児童生徒の保護者や、将来の受益者である就学前の子供の保護者の声を重視しつつ 地域住民や地域の学校支援組織と教育上の課題やまちづくりも含めた将来ビジョンを共有し、十分な理解や協力を得ながら進めていくことが大切になってきます。

1日目の学校説明会

1日目の学校説明会では、約270名の市民が参加されました。この日はAM 光風・PM 成徳学区を対象とした説明会でしたが、実は修徳小や益正小では運動会が行われ、別の小学校では授業参観が行われていたそうです。(市の教育委員会ですので、日程が被っていることは承知のはずですが…。)

30分の動画上映の後に、1時間の質疑応答が行われました。そこでは、市民から反対の声や怒りの声、鋭い質問が数多く出されました。ですが、時間の制限を理由に、質問は1人1個のみ、答えは答えになっていない、終了時間になったらたとえまだ手を上げている人がいたとしても強制終了、という状況でした。(終了時間になっても、まだたくさん手を上げている人がいましたが…。)

また、説明会で配布されたアンケートでは、説明会の各内容について「理解できた」か「理解できなかった」かを問うのみで、計画に対して「賛成」か「反対」かを問う設問は一切ありませんでした。「理解できた」=「合意を得た」と曲解して集計しないよう、注視が必要です。

教育長の話では、「地域から要望があれば、小学校区単位での説明会も開催する(=なければ、今の所する予定はない)」とのことでしたので、ぜひ各小学校区単位で開催してもらい、市民へ周知徹底してもらい、質疑応答は挙手した方全員が質問を終えるまで行ってもらえるようにしましょう。

また、説明会の際に教育長は「(義務教育学校以外で)校舎の改築・改修は考えていない」といった趣旨の回答をしました。つまり、義務教育学校ありきの計画で、そもそも市民の声にかかわらず計画を進めようとしているのだと予想されます。

なお、説明会では反対派の議員である、柴田理恵さん、多屋真美さん、永野元康さん、伊藤惠一さんなどもいらっしゃいました。こうした議員のお話によると、現在議会では(住民ではなく)市長派の議員が多数を占めているため、住民の声によって、市議会議員の声も変えていく必要があります。

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