桑名市の学校再編計画(原案)

桑名市は 現在の小中学校36校から、全ての小学校と明正中学校・成徳中学校を廃校にして、7校だけの義務教育学校(施設一体型の小中一貫校 )にする計画 (原案)を提示しました。

この背景には、①少子化による児童生徒数の減少、②学校の小規模化、③学校施設の老朽化、④公共施設の更新費負担(財政の問題) といった課題があります。

私たちは、こうした課題を解決するための「学校再編」それ自体を否定するつもりはありません。ですが、再編の内容や進め方については、慎重に検討すべきだと考えています。

「子どもたちが安心して学べる環境と、地域のつながりを守りながら、よりよい学校にしていくためには、どういった再編が望ましいのか?」そして、現在の学校再編計画(原案)について、「どこに課題がありそうか」「どのような進め方が望ましいか」を、皆さんと共有したいと思っています。

目次

文科省の学校統廃合の手引き

文科省は、「学校統廃合の手引き」を公開し、全国の自治体に参考にするよう指示しています。そのため、桑名市の学校再編計画(原案)を検討する前に、まずは国の指針をご紹介します。

学校の統廃合(学校規模の適正化)に関する基本的な考え方

  • 学校の統廃合は、あくまでも児童生徒の教育条件の改善を中心に考える。
  • 小中学校は、地域コミュニティの核であるため、学校の統廃合は行政が一方的に進める性格のものではない
  • 保護者の声を重視しつつ、地域住民や関係者の十分な理解と協力を得られるよう、十分な対話と丁寧な議論を行うべきである。
  • 可能な限り保護者や地域住民の意向が反映できるような工夫を講じることが極めて重要
  • 小規模校には課題がある一方、よりきめ細やかな教育が行えるなどのメリットもあるため、存続させる判断も尊重する(ただし、デメリットを最小化する工夫を講じる)。

学校の適正規模について

  • 小学校では、1学年1学級以上、クラス替えなどを考慮すると、1学年2学級以上が望ましい
  • 小中学校の標準規模(目安)は12~18学級(1学年2〜3学級)とする。
  • 小学校における学級の上限数は35人、中学校は40人(将来的には引き下げ予定)。
  • 学校規模の適正化を検討する際は、学級数と児童生徒数の両方の視点から考慮する。
  • 大規模校(25学級以上)、及び過大規模校(31学級以上)には様々な課題が生じる可能性があり、十分な教育的配慮を加える必要がある。
  • 過大規模校については速やかにその解消を図るよう設置者に対して促している。

学校の適正配置について

  • 学校の位置や学区を決める際は、児童生徒(特に低学年の児童)の通学の負担面や安全面に配慮する。
  • 小学校では約4km以内、中学校では約6km以内(=施設費の国庫負担対象)。
  • 通学時間はおおむね1時間以内。

桑名市の学校再編計画(原案)の論点

桑名市の再編計画は、多くの自治体で行われている一般的な学校の統廃合とは異なる点がいくつかあります。

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再編の方法学校の種類児童生徒数/校学校建設費再編の進め方
桑名市全市一律義務教育学校900人〜が5校92億円〜複数回の説明会
他の自治体地域ごと小学校/中学校〜630人*260億円規模*3地域ごとに話し合いの場

*2 文科省の指針、1学級35人以下、18学級以下が標準の小学校規模より算出。
*3 2024年の学校建設費の坪単価の全国平均×多度学園の面積で試算

1.学校の種類と形態 (義務教育学校)

桑名市の計画(原案)では、小学校と中学校が別々の学校になっている従来の方式とは異なり、小1から中3までの9年間を1つの学校で過ごす、「義務教育学校」「施設一体型の小中一貫校」という新しい学校にする計画です。

義務教育学校は、2016年に制度化されたまだ新しい学校種で、「教育」という長期に渡って影響が及ぶことに対する検証は、これから行われる段階の制度です。その数は、全国の小中学校 約29,000校のうち、0.8%程度の238校です。*1

義務教育学校(施設一体型小中一貫校)のメリットとデメリット

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メリットデメリット
・中学生と小学生の異学年交流ができる
・柔軟なカリキュラムを組める
・6年ー3年生以外の枠組みに変更できる
・学校の数を減らすことで、公共施設費を減らせる
・教職員の数を減らすことで、人件費を減らせる
・専用の補助金を利用できる
・教員間での情報教諭がしやすい
・小学生と中学生では発達や学校生活の仕方が異なるため、お互いにストレスを感じるという報告がある
・大規模校や過大規模校になりやすく、大規模になるほど課題が多くなりがち
・歴史の浅い制度で、十分なデータや検証結果が少ない
・小6=最高学年としてリーダーシップを発揮する成長の機会を失うと専門家が指摘
・小学校卒業、中学校入学という人生の節目がなくなる
・特別教室や行事の調整など、新たな教員負担が生まれると報告されている
・学区が広がり、地域関係が希薄化したことが課題にあげられている

義務教育学校(施設一体型の小中一貫校)は規模が大きくなるほど、子どもの「自信」や「学校の楽しさ」などが相対的に低くなることが、大規模調査の結果報告されています。*3

また、学区が広がり通学距離が伸びることによるリスク、廃校により地域から小学校が無くなることで起きる影響、学校の新設に伴う財政負担などについても、慎重に検討する必要があります。

小学生と中学生は発達段階が大きく異なる

日本もそうですが、諸外国では初等教育(小学校)と中等教育(中学校)は校舎が別々なのが一般的です。それは、子どもの発達段階が大きく異なるからです。

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小学生中学生
素直で周囲の大人を頼る。安心感・誉められることが動機に。自立しようとしながらも不安定。反抗や孤立、自己否定も。
対人関係同性・同学年の友だちとの遊び・交流が中心。上下関係は少ない。仲間集団の中での「立ち位置」を強く意識。いじめや排除が生まれやすい。
学び方好奇心が強く、先生や友だちと一緒に学ぶことで学習意欲が高まる。学力差・成績への関心が高まる一方、意欲の個人差が大きくなる。
身体・性への意識子供らしい体型・動き。異性や外見への意識は少ない。思春期で体も心も急成長。性に目覚め、異性や外見を強く意識。

心の面や対人関係、学び方、身体や性への意識も異なります。
だからこそ、校舎が別々にされており、先生たちも小学校と中学校それぞれの免許が必要になっています子どもへの接し方や教え方が大きく異なるため、専門性が違うのです。

なぜ義務教育学校(施設一体型の小中一貫校)にするのか?

市議会での質問に対して教育長は、コロナ前の2016年に行われた「桑名市学校教育あり方検討委員会」の答申に基づくものだと発言しています。

■あり方検討委員会の答申内容

・桑名市は2007年より10年近く小中連携に取り組んできた。
・小中一貫教育の成果として報告されていることは、
 ①中学校の先生が小学校に出向き授業を行い、学力・学習意欲の向上に繋がった
 ②教員間での情報共有が進み、子どものより良い成長に繋がった 
・小中一貫校は、桑名市の教育課題である下記に有効だと考える。
 ①学力・学習意欲の向上、
 ②小学校から中学校への滑らかな接続
・小中一貫教育を行う場合は、施設一体型が効率的で、小規模校への対応にもなる。

ここで慎重に考慮すべき点は下記です。

・桑名市からの諮問内容(検討するための前提)が「小中一貫教育を行う」「中学校区を基本とする」になっている*2
小中一貫教育の教育学的な成果(中1ギャップの解消、学力向上など)は明確になっていない*3
小中一貫教育を桑名市で進めるべきかどうかは、あり方検討委員会では十分議論されていない*4

桑名市における小中一貫教育の成果とは?

桑名市教育委員会は、「学力向上」を小中一貫教育の成果の1つとして挙げています。
ですが、令和7年のデータでは、中学校の理解以外、全国平均と大差がありません。学習状況についても、全国平均を下回っている箇所が多々報告されています。

また、教育の専門家によると、こうした「学力向上」の調査結果は、下記のようなバイアスがあることも報告されています。*3

・現場で、テスト前の事前対策が行われている
・年度によって生徒のもともとの学力水準が異なるため、平均点も変わる
・市の平均では向上していても、学校単位で見るとそうではないことがある(地域格差が広がっている)
・小中一貫教育をした学校とそうでない学校のように、対照群を設けた比較検証はされていない
・校長や管理職などに限定した調査が多く、教育委員会の意向を汲んだ回答になる恐れがある

課題の一つとして挙げられていた「中1ギャップ(小学校から中学校へ上がることへの戸惑いや不安)」に関しては、そもそもその概念自体が間違っていると指摘されており*6、義務教育学校になったとしても同様のギャップが他の学年で見られるため、解消されないという報告もされています。

義務教育学校に再編する必要性とは?

これまで見たきたように、私たちは、桑名市における小中一貫教育の成果や、他の自治体における義務教育学校の成果と課題を丁寧に検証した場合、

  • 桑名市では、小中一貫教育の効果が不明確
  • 桑名市では、小中一貫校や義務教育学校にする必要性はない

という判断もあり得るのではないかと考えています。

事実、先行する茨城県つくば市大阪府枚方市、高槻市、東京都武蔵野市などでは、こうした検証と議論を経て、「(今後)義務教育学校は作らない」と方針を見直しています。

*1 文科省「令和6年度学校基本調査(確定値)」
*2 桑名市「望ましい学校教育のあり方について(諮問)
*3 「小中一貫教育の実証的検証」梅原利夫・都筑学・山本由美 (編著), 岡田有司・金子泰之・髙坂康雅・佐貫浩 (著)
*4 「第4回 桑名市学校教育あり方検討委員会 議事録
*5 「桑名市における令和7年度の「全国学力・学習状況調査」結果概要
*6 国立教育政策研究所「中一ギャップの真実

2.学校の規模(児童生徒数・学級数)

桑名市における現在の小中学校の児童生徒数

文科省は「学校統廃合の手引き」の中で、クラス替えができる1学年2〜3学級(12〜18学級)を標準規模として、一つの目安にするよう案内しています。では、仮にこの目安を基準とした場合、それを下回る小中学校は市内にどれぐらいあるのでしょうか?

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小学校児童数/学級数小学校児童数/学級数小学校児童数/学級数
日進200人/9在良332人/12大山田西86人/6
精義157人/6七和276人/12大山田南298人/12
立教117人/6深谷103人/6藤が丘310人/12
城東49人/5久米227人/10星見が丘236人/12
益生355人/13城南349人/12長島北部105人/6
修徳264人/11大和94人/6長島中部322人/12
大成445人/16大山田東740人/26伊曽島121人/6
桑部179人/6大山田北445人/15
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中学校生徒数/学級数中学校生徒数/学級数中学校生徒数/学級数
成徳185人/6陽和351人/11光陵477人/13
明正488人/13正和307人/9長島319人/9
光風400/12陵成中710人/20

ここでわかることは

  • 少子化と言っても、学校ごとに児童生徒数が大きく異なる
  • 文科省の標準規模を基準とした場合、少なくとも半数の学校は統廃合が不要
  • 学区の見直しにより、改善できそうな学校もある
  • 文科省は、標準規模を下回る小規模校でも、そののまま存続する選択肢を尊重すると明言

こうした現状に対して、桑名市が示す計画はどういった内容になっているのでしょうか?

桑名市の学校再編計画(原案)で提示された学校規模

学校区割R13年の児童生徒数廃校となる小学校
(明正中・成徳中も廃校)
①光風2,218人(1学年7クラス規模)精義小、益世小、修徳小、大成小、深谷小、大和小
②陽和1,156人日進小、立教小、城東小、城南小
③正和1,475人桑部小、在良小、七和小、久米小
④陵成1,721人(1学年6クラス規模)大山田東小、大山田南小、藤が丘小
⑤光陵917人大山田北小、大山田西小、星見ヶ丘小
⑥長島635人長島北部小、長島中部小、伊曽島小
⑦多度学園校区
(R8年4月開校)
開校時推計
842人
多度中小、多度北小、多度東小、多度青葉小

桑名市の計画(原案)では、もし令和13年までに再編が進むと、1,000人超えの過大規模学校が7校中4校、光風学区は2,200人超えの巨大な学校になると想定されています。これは、1学級35人で計算した場合、1学年7クラスの規模です。

2,000人超えの公立小中学校は、私たちが調べた限り、現時点では全国でも見つかりませんでした。

文科省の指針を超えた学校規模

文科省の指針では、義務教育学校の適正規模は18学級〜27学級(1学年2〜3学級×9学年)、児童生徒数は600〜990人程度です。

大規模校になると、様々な課題が生じる可能性があり、「(31学級以上の)過大規模校については速やかにその解消を図るよう設置者に対して促している」と学校統廃合の手引きにも記載もされています。

大規模校で生じる可能性がある課題 (学校統廃合の手引きより)

1. 学校行事等において、係や役割分担のない子供が現れる可能性があるなど、一人一人が活躍する場や機会が少なくなる場合がある
2. 集団生活においても同学年の結び付きが中心となり、異学年交流の機会が設定しにくくなる場合がある
3. 同学年でもお互いの顔や名前を知らないなど、児童生徒間の人間関係が希薄化する場合がある
4. 教員集団として、児童生徒一人一人の個性や行動を把握し、きめ細かな指導を行うことが困難であり、問題行動が発生しやすい場合がある
5. 児童生徒一人当たりの校舎面積、運動場面積等が著しく狭くなった場合、教育活動の展開に支障が生じる場合がある
6. 特別教室や体育館、プール等の利用に当たって授業の割当てや調整が難しくなる場合がある
7. 学校運営全般にわたり、校長が一体的なマネジメントを行ったり、教職員が十分な共通理解を図ったりする上で支障が生じる場合がある

こうした状況に対して、教育長は市議会で
「あくまで国の示す適正規模で、全国では1,000人以上の規模でもうまく回っている学校があるため、1000人超えでもやる」といった趣旨の発言をしています。

ですが、下記のような事実から、私たちは学校規模についても慎重な検討が必要だと考えます。

・文科省の指針は、全国の事例を踏まえた内容であり、実際に同様の課題が生じる可能性が高い
・大規模な義務教育学校(施設一体型の小中一貫校)になるほど、子どもにマイナスの影響が出やすいと報告されている*3
・桑名市では現在、1000人以上の規模の学校を運営していないため、経験や実績、ノウハウが乏しい
・1,000人以上の規模の組織を適切に運営できるリーダーは、会社組織などを考えても希少で、こうした人財が桑名の各大規模校に着任してくれる可能性は低いと想定される

全国の他の義務教育学校の生徒数

出典:大阪教育文化センター「もうやめよう !「小中一貫」・学校統廃合 Q&A」

上記の表の通り、大半の義務教育学校は、過疎地域の小規模校を維持するための選択肢として活用されてきた背景があります。そのため、2020年時点の速報値では、1校あたりの児童生徒数が380人になっています。

なぜ大規模校にするのか?

桑名市は、今から38年後、令和45年(2063年)の時点において、1学校あたりの学級数が文科省の適正規模になるよう計画していると発表しています。

ですが、これには3つの重要な懸念事項があります。

1. 学校再編(統廃合)が早く進むほど大規模校になり、様々な課題が生じる恐れがある
2. 人口推計は、期間が長いほど、対象の母数が少ないほど、正確性が大きく下がる
3. 世界的なトレンドは少人数教育であり、研究によると15人前後が最も教育効果が高いと報告されている

人口推計の正確性

国立社会保障・人口問題研究所の分析によると、市区町村の将来人口推計は、推計期間が長くなるほど誤差が大きくなり、特に人口規模が小さい地域や年少人口では、20〜25年先で誤差が数十%に達することが報告されています。

桑名市の資料では、令和45年時点の各小中学校区ごとの児童生徒数が示されていますが、これは 40 年近く先の「学区別・学齢人口」という、最も不確実性が高い部類の推計です。つまり、光風地区のような単一学区の児童生徒数は、±30%どころか、それ以上ズレても不思議ではないような数値です。

ですから、

  • 「減少傾向か、概ね横ばいか」といった方向性を見る参考値としては有用である一方で、
  • 「令和45年に○○地区は 1,212人になる」といった点の予測として扱うことは適切ではない
    と考えられます。

小規模校や少人数教育の利点

文科省の資料によると、1学年2学級未満の公立小学校は約4割にのぼります。そのため、1学年1学級であっても、全国的に見てそれが少ない方である、ということはありません。

1学年1学級の場合、確かにクラス替えができず人間関係が固定化しやすい、いじめなどのトラブルがあったときにリセットする機会が乏しい、などの課題もあります。

ですが、こうした小規模校の場合、学年を超えて子どもたちが仲良くなりやすかったり、のびのびと過ごせたり、先生の目が一人ひとりに細かく行き届きやすかったり、といった利点も多くあります。

また、大規模な複数の研究によると、1学級あたりの人数は「15人前後」が最も教育効果が高いことが報告されています。国際的に見てもOECDの平均は1学級21人で、過去10年間でこの平均値は毎年下がっています。ですので、財政的に問題なければ、1学級35人の定数を15人程度に下げれば、1学年2学級になるため、クラス替えもできるようになります。

桑名市の計画(原案)にも記載されている通り、多様な価値観に触れ、社会性を育むために、一定の集団規模の確保は必要だと思います。ですが、そのために、はたして1,000人超えの集団規模が必要なのかは、多いに検討の余地があると考えています。

3.老朽化対策

※以下より編集途中になります。少々お待ちください。

法定耐用年数と実際の耐用年数の違い

桑名市は、税務上の基準である「法定耐用年数」のみを提示していますが、適切な維持管理をした場合の物理的な耐用年数は、鉄骨鉄筋コンクリート像の場合、70〜80年も可能、とされています。

このため、多くの自治体では、大規模な学校を新設するよりも費用を抑えられやすい、「長寿命化」や「大規模修繕」を軸に、学校施設の老朽化対策を行っています。

老朽化対策の先送り

桑名市内の一部学校では、老朽化が非常に深刻であり、学校の建て替えや修繕は急務です。

桑名市は、「個別施設計画」において、各学校施設の老朽化等の状況をA〜Dランクで評価しています。「早急に対応する必要がある」D評価の施設は、本来子どもの安全を確保するために、最優先で修繕が行われるべき施設です。

ですが桑名市の個別施設計画によると、学校再編による小中一貫校の新設を前提とし、これまで計画的に先送りしてきたことが示されています。

“早急に対応する必要があるとされる D 評価と判断された学校施設に関しては、棟毎に部位修繕を行っていきます。ただし、「望ましい学校教育のあり方について 答申」において、早期に対応が必要な中学校区に該当する学校施設については、小中一貫校に向けた統廃合が想定されることから、部位修繕は行わないこととします。

(「桑名市学校施設適正管理計画(2021年)」P.45)

このように、これまで十分な改修・修繕が進まなかった背景についても、今後、検証が必要だと考えています。

既存の学校の敷地内での建て替え

桑名市は、同一敷地内での建替えは「不可能」としていますが、工事を段階的に行う、工事時間を制限する、車両の出入り場所を限定する、体育のみ別の場所で行う、などの工夫をすれば、対応は可能なはずです。実際、他の地域では同一敷地内での建替え工事を無事に行なっています

4.学校建設費と財政への影響

・多度学園と他校の比較:同規模の学校と比較して、30億円以上高い多度学園。2024年の学校建設費の平均値よりも30億円程度高い。物価高などを理由に後から費用が上乗せさせられたため、その増額分は国の補助金対象からも外れている。
・多度学園の入札方式:上限なしのプロポーザル、関連企業がスクールバスも受注
・財政シミレーションの提示なし:教育長は、「各学校をいつ建設するか不明のため、今の段階で試算しても意味がない」と市議会で答弁。
・学校統廃合が進む訳:全国で公共施設の更新時期(建替えや大規模改修が必要な時期)を迎えており、市区町村において小中学校が公共施設の4〜5割を占めるため、学校がリストラ対象になっている。
・新設すると費用削減に繋がらないケースも多い
・学校の長寿命化対策+複合化/多機能化の方がトータルコストを抑えられる可能性

5.学校再編の進め方

子どもの意見をどのように反映するかが見えにくい

「計画策定にあたり配慮すべき事項」ページなども含め、桑名市の資料では、当事者である子どもの声をどう聞くかについての説明がありません。小学校単位での説明会や保育園・幼稚園での説明会も、市民からの要望がない限り予定していません。

質疑応答の際に教育長は「現在、子ども向けの動画を作成しており、それをホームページに掲載して見てもらう予定」と説明していました。

一方で、これだけで子どもたちの不安や意見を十分に把握できるのかについては、慎重な検討が必要だと考えています。例えば、学校ごとのワークショップやアンケートなど、子どもが自分の言葉で意見を伝えられる場づくりも重要ではないでしょうか。

こどもの権利条約 第12条(1994年 日本批准)

子どもが自分の意見を自由に表明する権利を保障し、その意見を年齢や成熟度に応じて適切に考慮することを定めています。具体的には、子どもは自分に影響を及ぼすあらゆる事項について、自由に意見を表明する権利を持ち、その意見は、子どもの発達段階に応じて十分に考慮されなければなりません。

こども基本法 第11条 (2023年 施行)

国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となる、こども又はこどもを養育する者、その他の関係者の意見を反映させるために、必要な措置を講ずるものとする

大阪では学校の統廃合を苦に自ら命を絶ったケースも報告されています。先行するつくば市では、義務教育学校に再編した後に不登校児が増加し、茨城県が全国ワースト1位になった経緯があります。

他にも、大阪府や東京都久留米市、高知県土佐清水市などでは、学校統廃合をきっかけに、子どもたちの生活や学校の落ち着きに大きな影響が出たと報じられています。

こうした事例を踏まえると、計画の段階から子どもたちの声を丁寧に聞き取り、影響を最小限に抑えるための対策を検討することが重要だと考えます。

なお、兵庫県川西市では、こどもたちが自分たちの声をニュース(紙面)にして地域に配布し、小学校体育館での説明会にも子どもが多数集まり発言したことで、小学校の統廃合計画を白紙撤回させた事例があります。高知県四万十市でもこどもたちが「子どもの命と権利を守って」と署名活動や議会請願を行い、地域を動かしました。

市民参加と合意形成のプロセスに課題がある

学校再編計画は、教育や子育て、地域生活に大きな影響を与える非常に重要な計画です。
そのため、本来であれば、住民投票の実施も含め、市民の意思を丁寧に確認する仕組みが検討されてもよいレベルのテーマだと考えています。

しかし現時点では、市民との対話の場や情報提供の在り方について、「十分とは言えないのではないか」という声も多く聞かれます。

地域ごとに課題が異なる中、来年開校する多度学園の効果検証を行う前に、全市一律で義務教育学校化を進めるスケジュール案が示されており、この点についても多くの市民や一部の市議会議員から懸念の声が上がっています。

小学校や保育園などに出向き、子どもや保護者、地域住民と繰り返し対話を重ねながら検討を進めることが、望ましいのではないでしょうか。

地域とともにある学校づくりが求められていることを踏まえれば、学校統合の適否を検討する上では、学校教育の直接の受益者である児童生徒の保護者や、将来の受益者である就学前の子供の保護者の声を重視しつつ 地域住民や地域の学校支援組織と教育上の課題やまちづくりも含めた将来ビジョンを共有し、十分な理解や協力を得ながら進めていくことが大切になってきます。

文科省 平成27年 公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引き

教育委員会の審議のあり方

国政同様、市民が市政に要望を直接伝えることのできる請願は、憲法第16条で国民の権利(請願権)として保障されています。教育委員会への請願も認められています。

三重県教育委員会や四日市市教育委員会とは異なり、桑名市教育委員会の会議規則には、請願の取扱いに関する規定がありません。そのため、教育委員会宛に市民が提出した請願書は、請願法第5条に基づき受理をし、誠実に処理される必要があります。

各議会、内閣又は各大臣その他の国家機関は、請願を受理し、これを誠実に処理しなければならない。
(請願法第5条。地方自治法124条により、自治体にも適用される。)

教育委員会は合議制であり、教育委員会として意思決定するには教育委員会会議における審議・議決が必要です。ですが、桑名市教育委員会の場合、市民からの請願を受理した報告は行うものの、審議や議決を行なわずに進めることがあります。これは、請願上の「誠実な処理」と言えるのでしょうか?

また、教育委員会の会議は原則公開され、市民が傍聴することもできます。専門家によると、こうした公開の原則は、秘密主義が軍国主義の温床だったことへの反省や、教育の民主化のためだそうです。この公開の原則から外れるのは(非公開になる事案)、人事に関することやプライバシー、人権に関わるものが通常のようです。

一方、桑名市教育委員会の場合は、非公開となり、市民が議論の内容を知り得ない事案が非常に多い状況です。

6.地域コミュニティや人口への影響

学校は、地域の文化やコミュニティの中心です。地域の小中学校がなくなることで、住民同士の関係が希薄になったり、地域ごとの課題を解決できなくなったり、文化が消滅したりする可能性もあります。これまで行われてきた学校でのお祭りや地域行事がなくなり、地域の最小単位が大きくなることで住民同士が疎遠になりやすくなります。

先行する兵庫県丹波市青垣町では、学校の統廃合を機に子育て世代を中心に著しい人口減少が発生し、町の衰退と過疎化が急速に進んでしまった、というケースもあります。

防災拠点の喪失や跡地の利活用

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