小中一貫教育が子どもに与える影響とは?― 研究から見えた本当の姿

小中一貫教育の「成果」とデメリットとは一体何なのか?
その問いへの答えを、心理学と教育学の専門家たちが、9年間に及ぶ研究によって検証した集大成。
それが、「小中一貫教育の実証的検証 〜心理学による子ども意識調査と教育学による一貫校分析」です。

今回は、その書籍の中から、「小中一貫教育は子どもの成長・発達にメリットがあるのか?」という視点から、深掘りしていきたいと思います。

【編著者】
・梅原 利夫(和光大学 名誉教授、「教育課程・カリキュラム論」専門の研究者)
・都筑 学(中央大学 文学部教授、「発達心理学」専門の研究者)
・山本 由美 (和光大学 現代人間学部教授、「教育制度・政策論」専門の研究者)

【著者】
・岡田 有司 (東京都立大学 大学教育センター准教授、「発達心理学」専門の研究者)
・金子 泰之 (静岡大学 教職センター講師、「発達心理学」専門の研究者)
・髙坂 康雅 (和光大学 現代人間学部教授、「発達心理学」専門の研究者)
・佐貫 浩(法政大学名誉教授、「教育制度・政策論」専門の研究者)

目次

「中1ギャップ」は本当に解消されるのか?

小中一貫校を新たに設置する理由としてよく使われる「中1ギャップ」とは、小学校と中学校の間にギャップがあるから、いじめや不登校が中学校で増える、という主張です。

しかし、実際にはいじめや不登校の兆しは小学校時代から始まっており、中学校進学によって急に始まるわけではないという研究結果が出ています。

国立教育政策研究所からは『「中1ギャップ」の真実』というリーフレットも出されています。

♦「中 1 ギャップ」という語に明確な定義はなく、その前提となっている事実認識(いじめ・不登校の急増)も客観的事実とは言い切れない。
♦「中 1 ギャップ」に限らず、便利な用語を安易に用いることで思考を停止し、根拠を確認しないままの議論を進めたり広めたりしてはならない。

また、小中一貫教育によって、小学校の高学年年代から中学校の前倒しが始まることで、この年代の子どもたちのストレスが強くなっている点や、中学校生活への期待が低くなっている点も見逃せません。

従来のように、小学6年生が中学校への進学に「期待」と「不安」の両方を感じることは自然な発達段階であり、それが中学校での前向きな生活への原動力となっている側面もあるのです。

小学校から中学校への進学経験は、子どもの発達・成長にとって、むしろポジティブなチャンスになり得ます。

「施設一体型」の子に現れた、ネガティブな傾向とは?

施設一体型の小中一貫校(義務教育学校含む)と、それ以外の学校は、学習環境が大きく異なります。通学時間や通学方法の変化(例えば バス通学など)、小学生と中学生が 同じ1つの敷地内・校舎で学習や生活を送ることなどです。

桑名市の再編計画(原案)より抜粋

そこで第一期の研究では、施設一体型の小中一貫校と、それ以外の学校を分けて比較調査が行われました。

学校へ行きたくない、疲れがとれない、自信がない

施設一体型の小中一貫校に通っている小学校段階の児童(4〜6年生)は、他の学校形式と比較して、次のような特徴を持っていました。

・学校適応感が低い:「学校が楽しくない」「学校に行きたくないと思うことがある」
・疲労感が強い:「疲れが取れない」「体がだるい」
・目標に挑戦する姿勢が弱い
・自分の有能さを感じにくい:学業、対人関係、運動、自己価値のそれぞれにおいて
・自分のやりたいことや意見を明確に示すことが少ない

(ただし、この施設一体型小中一貫校はまだ新設して間もない、という事実にも留意が必要)

施設一体型の場合、規模が小さい方が子どもたちにとってプラス

施設一体型の小中一貫校の中でも、学校規模が大きくなるにつれ、「学校が楽しくない」と感じる子が増えていくことが分かりました。「学校が楽しい」「学校へ行きたい」という気持ちの強さは、子どもたちが通っているそれぞれの学校規模に依存するところがあると言えます。

加えて、下記のような調査結果から、施設一体型の学校規模は、児童生徒の自己意識や他者意識の形成に影響を及ぼす要因となっていることが考えられます。

【大規模校】
・他者への怒りの感情が高い傾向
・4〜6年生の精神的健康度は高く、生活に満足し自信を持って 目標に挑戦している、自己の有能さも感じている

【小規模校】
・他者からの評価を懸念すると同時に、自己主張をして、他者との関係を上手に築いていく傾向がある

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