桑名よりも先に、大規模な学校統廃合が行われた大阪。
その結果、今どんなことが起き、どんな問題が生まれているのかを、下記の資料から読み取ることができます。
コロナ禍で浮き彫りになった学校統廃合の問題点

コロナ禍では、政治や社会や世の中のあり方ばかりではなく、日本の教育の問題点が浮き彫りにされてきました。
全国で小中一貫教育と一体に学校統廃合がすすめられていますが、コロナ禍で、感染防止対策としても20人学級の必要性が叫ばれているもとで、それはまったく逆行するものです。
まして、施設一体型の小中一貫校をつくるとなると、多くの場合1つの校地に2つ以上の学校の子どもたちを詰め込むことになり、子ども一人当たりの面積が狭くなり、「密」になるのは当たり前です。
大阪教育文化センター「学校統廃合・小中一貫教育研究会」は、コロナ禍のもとでの新たな情勢にふさわしく、「学校統廃合・小中一貫教育Q&A」第2弾を作成しました。

- 学校統廃合・小中一貫教育のルーツは?
-
ルーツは 2005 年の中央教育審議会(中教審)答申です。
…学校統廃合によって公財政支出を削り、小中一貫教育によって学校間格差を作り出すやり方は、新自由主義的教育改革そのものです。 - 学校統廃合は文科省というよりも総務省主導というけれど本当?
-
本当です。
…アベノミクス「3本の矢」の③民間投資を喚起する成長戦略が、『自治体戦略 2040 構想』という形で具体化されてきました。「自治体戦略 2040 構想」の本質は、新自由主義的地方行政サービス「切り捨て」です。
…今、全国の自治体で公共施設を統廃合する計画の策定がすすめられていますが、…公共施設(ハコモノ)の多くは廃止する方向でその標的にされているのです。
…自治体の公共施設の多くは 1970 年代前後から建設されてきました。これらは、概ね 30 年で大規模改修が必要となり、60 年程度で廃止されます。したがって,近い将来に公共施設の一斉更新(建て替え)が必要になり、膨大な費用が自治体の財政支出や国の補助金として必要になります。
公共施設の大きな部分を占める学校が特にねらわれる…文部科学省が実施した調査(2012年)によれば,公立小中学校は市区町村が所有管理する公共施設全体の約4割を占めています。このうち改修が必要とされる老朽化が深刻な建築後30年以上の公立小中学校施設は2015年度には66.5%にのぼると推計されています。
- 大阪府内の状況はどうなっているの?
-
学校統廃合と小中一貫教育は一体ですすめられています。
…行政側は「小規模校の教育はダメ、クラス替えができず、人間関係が固定化する、切磋琢磨できない、中1ギャップの解消」等を口実に、統廃合を推し進めてきました。
…施設一体型小中一貫校のほとんどが、
①小学校高学年から定期テスト・教科担任制、
②小中 9 年間のカリキュラム編成等
をあげていますが,専門性の名の下に中学校教師がかり出され,小学生の段階から「テストずくめ」になる可能性があります。また,9 年間の系統性・連続性を考えたカリキュラムといいますが,小中一貫の教科書もなく,問題集なども市販されていません。小中で授業時間も異なるわけですから,一つの施設に小学生と中学生を詰め込むには無理があります。
学年3クラス以上の施設一体型は「適正規模」を超えたマンモス校…(豊中市や交野市の1,000人規模の施設一体型、義務教育学校)これらの学級数は小中あわせて 33 にもなり,「適正規模」(小学校 12 〜 24,中学校 9 〜 18)から見ても,1つの敷地に「マンモス校」が生まれることになります。
※桑名の場合は、1,000人規模の学校が3校(陽和1,156人、正和1,475人、光陵917人)、2,000人規模の学校が2校(光風2,218人、陵成1,721人)です! [R13年の児童生徒数] - 施設一体型小中一貫校でどんなことが問題になっているの?
-
子どもたちの悲鳴が聞こえてきます。施設一体型小中一貫校では,チャイムの問題,施設設備の問題,行事の問題などがまず顕在化します。
「中一ギャップ」が解消できない矛盾
中学校生活を間近に見ることで,小学生たちは,期待や憧れが育たず,かえって不安が増大するようです。目に見えるのは,「勉強が大変そう」「先生が怖そう」「部活しんどそう」といった表面的なことがらばかりで,中学校生活の楽しさまでは分からないからです。…こうして飛躍を体験しないまま高校へ入学することになるのですが,今度は「高 1 ギャップ」
が乗り越えられません。高校中退率の高さに悩む小中一貫校が出てきました。小中学校が同居し,互いの存在が日常化してしまう施設一体型では,導入の根拠とされた「中1 ギャップ」の解消が図られないどころか,かえって深刻な問題を生んでいるのです。
形骸化する「小中一貫カリキュラム」
…目の前の子どもの実態や,その時々の社会の変化に応えるためには,9 年分ものカリキュラム作りは不可能なのです。
肝心の授業は「塾のよう」
品川の小中一貫校でも「授業が面白くない」問題が指摘されています。原因としては,授業以外の仕事が多すぎて,教員がしっかり教材研究ができないことや,小中合同の校内研修では,授業研究が深まらないことが考えられます。
…また,小学校で教科担任制を導入した結果,中学校と同じような「進度重視」の授業になることもあるようです。
マンネリ化する学校行事
小中一貫校では,大きな行事を小中合同で行うことが多いです。子どもたちの出番も少くなるので,特に中学生から「行事が楽しくない」「ぜんぜん楽しみじゃない」と言われがちです。
「開校して数年たつと必ず荒れてくる」のはなぜか
施設一体型小中一貫校では,施設設備や時間的な制約から,遊びが制限され,遊ぶとうるさがられる小学生時代を過ごします。それはすなわち,小学生の未熟さ・かわいさ・やんちゃが肯定されない世界です。
また,小学校が中学校化することで「小さすぎる自分」ばかりが内在化され,自己肯定感が育ちにくくなります。そして,一般の小学校では「最高学年」「小学校の顔」として尊重される 6 年生も,一貫校では,そうはいきません。
小学校卒業と中学校入学という大切な節目をあいまいにしたまま,しかし高校受験をゴールにした学校生活が始まります。しんどくても,つねにお手本としての役割を求められるのが,一貫校の中学生です。これで思いやりが育つのか,大いに疑問です。
授業や行事の楽しみの少なさ,我慢と疲労感のつのる学校生活,将来への不安感の結果,子どもたちが悲鳴を上げているのではないでしょうか。
- この間の運動の教訓はどのようなものですか?
-
お母さんやお父さんが立ち上がると大きな力になります。この数年,各地で学校統廃合や小中一貫校の計画が持ち上がり,そのたびに反対運動が展開されてきました。けっして行政の当初の思惑通りにはさせず,一定歯止めをかけて押し返しています。
学校つぶしの論建ては 全国共通
もともと,学校統廃合は総務省の公共施設の面積減らしの通達によるものなので,統廃合への論建ては,驚くほど共通しています。まず,少子化で,子どもが減っているというグラフや表が出てきます。
…次に行政は,子どもが減り,「学校規模が小さくなっている」「適正規模は〇〇学級なのに」と教育的根拠のない数字を出して統廃合を押してきます。そして,小規模校は「切磋琢磨できない」「人間関係が固定化する」からよくないという攻撃も始まります。
…反撃しないと,統廃合やむなし,あるいは地域に学校を残すためには小中一貫校建設というところに落とし込まれます。よく,「もう決まったことだから」とのあきらめ論が流されますが,実際は,建設予算がついて,業者が決まるまでは「後戻り可能」です。白紙撤回できなくても「計画凍結」「棚上げ」でもいいのです。行政は「〇年度中に計画しないと補助金が出ない」などと急がせてきますが,本当は,長い目で見て,時間をかけて話し合う問題です。
分断と沈黙の果てにいい学校はできません
世論誘導の仕方も共通しています。地域に分断を持ち込んで,人々を沈黙させるのです。
…第2次ベビーブーム・大規模校で育った世代が親になっているので,「自分たちのころに比べてさびしい感じがする」と思う人が大半です。そこへ「学力向上」「いじめ」「不登校」など今の教育課題を解決するかのように宣伝される「小中一貫校」は,「新しい」「なんかステキ」となるわけです。
…「保護者の理解なしに計画をすすめない」という一致点で,まず情報開示を求めた枚方の「親ネット」の運動は教訓的です。
…いっぽう地域に長く住む方々は,歴史を語り,地域の祭りや運動会,避難所など地域の要としての学校の役割にこだわって,統廃合に反対します。世代間で,親子で意見が食い違う,という不幸なことも起こります。こうして地域も分断されます。
池田市では,小学校区ごとに教育懇談会を開き,地域ごとの学校への思いを語り合ったことが,運動のエネルギーとなりました。…これが3校の小中一貫校計画のうち 2校を凍結させる力となったのです。
…教員も黙らされます。緘口令を出す地教委もあります。
…そして,一番大切な子どもたちの気持ちを忘れがちになります。子どもたちは自分たちの学校がなくなることへの不安や不満をうまく言語化できません。器物破損や授業不成立といった「荒れ」として表現します。学校統廃合に抗議して命を絶った小学生もいます。関東では,「開校と同時に全学年で学級崩壊」「きれいな校舎があっという間にラクガキだらけになった」事例もあります。
子どもの気持ちを置き去りにこの議論をすすめるべきではありません。子どもの声をビラにして地域に返した川西市の運動,小中学生にシール投票を呼び掛けながらインタビューをした交野市の運動の中から聞こえてくる子どもの声は,怒りと悲しみでいっぱいです。子どもにとっては今の学校が「すべて」なのです。
小中一貫校を作るための理屈は後付け
「中1ギャップの解消」のために小中一貫校にするという説明もされます。しかし,中学校の問題は,思春期課題の表れであったり,管理主義や受験,部活の問題でもあったりします。ですからそれらを小学校段階に前倒ししても解決しないどころか,逆効果になるのです。
…また,「学力向上」をめざす上で,中学校教員の教科の専門性を生かせるという,小学校教員には大変失礼な話も出ます。しかし小学生に必要なのは,学級担任が学習の仕方やルールを教えることです。その土台の上に,中学校での教科担任制があるのです。
文章・画像元:https://osaka-kyoubun.org/wp/wp-content/uploads/21gakkoQA.pdf